国鉄鹿児島自動車営業所事件


国鉄鹿児島自動車営業所事件
最高裁判所第2小法廷判決 平成5年6月11日
判例タイムズ825号125頁

一 本件は、旧国鉄(昭62・4・1の国鉄法の廃止とともに国鉄清算事業団に移行した。
国鉄清算事業団法附則2条参照。)の職員が業務命令を違法であるとして上司個人を相手に提起した損害賠償請求訴訟についての最高裁判決である。
 Xは国鉄九州総局鹿児島自動車営業所(以下「鹿児島営業所」という。)の運輸管理係の地位にあったが、営業所の管理者に準ずる地位である補助運行管理者に指定され、昭和60年7月及び8月のうち、連続して2日間ずつの合計10日間が、補助運行管理者として点呼執行業務に従事すべき日に定められていた。
道路運送法(平成元年法律第83号による改正前のもの)23条1項は、一般旅客自動車運送事業者は事業用自動車の運行の安全の確保に関する事項を処理させるため所定の営業所ごとに運行管理者を選任すべき旨規定し、これを受けて制定された自動車運送事業等運輸規則(平成2年運輸省令第23号による改正前のもの)32条の2によれば、運行管理者の業務内容は、(1)輸送の安全確保に支障が生ずるおそれがあるときに、乗務員に対する必要な指示その他輸送の安全のための措置をとること、(2)乗務員に対して点呼を行い、所定の事項につき報告を求め、事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な指示等を行うこと、(3)乗務員に対し所定の指導監督を行うこと、等とされている。
そして、同規則25条の5に基づき制定された国鉄の運行管理規定によれば、補助運行管理者は、前記(2)の業務(点呼執行業務)を行い、点呼を行うとともに、乗務員の服装、態度等を確認し必要な指示等を行うものとされている。
 本判決によれば、本件のおおよその経緯等は、次のようなものであった。
Xは、補助運行管理者として右の点呼執行業務に従事すべき日とされていた前記10日間のいずれの日においても、国鉄労働組合(以下「国労」という。)の組合員バッジ(以下「本件バッジ」という。)を着用したまま点呼執行業務を行おうとしたため、鹿児島営業所の所長Y1がその取外し命令を発したが、Xは右命令に従わず、これに対してY1は、右各日、Xを点呼執行業務から外して鹿児島営業所構内の火山灰の除去作業(以下「降灰除去作業」という。)に従事すべき旨の業務命令(以下「本件各業務命令」という。
右の火山灰というのは、桜島の噴火活動によって上空に吹き上げられ鹿児島市内に飛来して降り積もったものである。)を発し、そこで、Xは、本件各業務命令に基づき、前記の各日の勤務時間中、右の降灰除去作業に従事した。
本件バッジの着用は、国労の組合員であることを勤務時間中に積極的に誇示する意味と作用を有し、勤務時間中にも職場内において労使間の対立を意識させ、職場規律を乱すおそれを生じさせるものであり、一方、降灰除去作業は同営業所内の職場環境整備等のため必要な作業であって、従来も職員がその必要に応じてこれを行うことがあった。
 本件損害賠償請求訴訟は、Xが、本件各業務命令はXが本件バッジの取外し命令に従わなかったことから、労働契約に根拠がなくまたその必要もないのに懲罰的に発せられた違法なものである等と主張し、不法行為に基づき、Y1及びこれに協力した首席助役Y2各個人を相手として各自50万円の慰藉料の支払をすることを求めたものである。
 二 Xの右損害賠償請求について、一審(本誌696号138頁)は、(1)降灰除去作業は、Xの労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない、(2)本件バッジの着用は、職場規律を乱し職務専念義務に違反するものであるから、Y1のした前記取外し命令及びこれに従わなかったXを点呼執行業務から外した措置にはいずれも合理的な理由があり、違法なものとはいえない、(3)しかし、本件各業務命令は、殊更降灰除去作業を命ずべき必然性がなかったのに、本件バッジの取外し命令に従わなかったために、懲罰的に発せられたものであって、このようにかなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせるのは、業務命令権の濫用であって違法である等として、Y1、Y2について各自10万円の慰藉料の支払義務を認め、Xの請求を一部認容し、二審(本誌725号115頁)もこれを維持した。
これに対して、Y1、Y2が上告した。
 本判決は、上告を容れ、原判決中Y1、Y2の敗訴部分を破棄し、一審判決中右部分を取り消してXの請求を棄却すべきものとしたものである。
 三 最1小判昭61・3・13、労判470号6頁(電電公社帯広局事件)によれば、一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することのできる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者にゆだねることを約する労働契約にあり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものとされている。
 本件についてみてみると、一、二審は、前記のとおり、降灰除去作業がXの労働契約上の義務の範囲内に含まれる等としながら、本件各業務命令は、本件バッジの取外し命令に従わなかったことに対して懲罰的に発せられたものであり、業務命令権の濫用であって違法であるとしたのに対し、本判決は、原審の確定した事実関係の下で、(1)降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境整備等のために必要なものであり、その作業内容、作業方法等からしても社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、Xの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものである、(2)本件各業務命令は、Xが、Y1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、Y1が上部からの指示に従ってXをその本来の業務から外し、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置であって、これが殊更にXに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない、として、本件各業務命令を違法なものとすることはできず、本件各業務命令は不法行為を構成するものではないと判断した。
なお、本件バッジの着用行為について、本判決は、上告論旨の争点となっていないためか、「本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為」という説示をするにとどめているところ、本判決の右説示は、国鉄職員の服務の基準を定める国鉄法32条(特に2項の職務専念義務)や国鉄の服装に関する定め等の存在を踏まえたものと思われる。
 四 本判決は、管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため、点呼執行業務から外して労働契約上の義務の範囲内には含まれるが職員の通常業務ではない職場環境整備等のため必要な作業(降灰除去作業)を命じた業務命令が職場管理上やむを得ないもので違法とはいえない、としたものであって、業務命令に関する同種事案の先例として参考になろう。

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