全日本空輸(退職強要)事件


全日本空輸(退職強要)事件
大阪高等裁判所判決 平成13年3月14日

(1) 事件の概要 本件は,客室乗務員であった被控訴人(一審原告)が,控訴人(一審被告)会社から執拗な退職勧奨を受けたうえ理由なく解雇されたとして,解雇無効による雇用契約上の地位の確認と,退職強要は人格権を侵害する不法行為に当たるとして1100万円の慰謝料の支払いなどを求めた事件である。
 被控訴人は,昭和48年から客室乗務員として18年以上勤務していたが,タクシーで勤務に向かう途中の追突事故によるむち打ち症で労災認定を受け,約4年間休職した。その復職後に復帰者訓練として定期緊急総合訓練を受け,模擬演習で3回とも不合格と判定された。この間会社は被控訴人に仕事を与えず,三十数回の面談を行い,時には大声を出したり,机をたたいたりして退職を迫り,3回目の訓練が不合格となった後に労働能力の低下などを理由として被控訴人を解雇した。
 会社は,3回もの復帰者訓練の機会を与えたがこれに合格せず,客室乗務員としての通常業務の遂行も不可能な状態であり,就業規則の「労働能力の著しく低下したとき」などに当たり,乗務が不可能である以上雇用を継続しがたい「やむを得ない業務上の都合によるとき」などに該当して解雇は正当であり,退職強要の事実はないと主張した。
(2) 一審の判断 被控訴人には就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められず,解雇に合理的理由がなく,解雇権の濫用であるとした。また,被控訴人に対する上司の態度は社会通念上許容しうる範囲を越えており,単なる退職勧奨とはいえず,違法な退職強要として不法行為に当たるとした。ただ,被控訴人は退職しておらず,被控訴人の態度が上司の言動を誘発したとして請求額を大幅に減じ,慰謝料50万円の支払いを命じている。この判断に対して,会社は敗訴部分の取消しを求めて控訴し,被控訴人は慰謝料額などを不満として附帯控訴を行った。
(3) 二審における主張 二審において,控訴人会社は次の主張を付加している。(1)解雇の有効性について,被控訴人は緊急保安要員として不適格というだけでなく,客室乗務員としての通常の業務遂行も不可能な状態であり,労働者として債務の本旨に従った労務の提供ができない状態にあったし,復帰準備期間の提供や教育的措置など信義則上求められる手段をとったうえでの解雇であって解雇は有効である。(2)多数回にわたる面談は職場復帰を要請するためのものであって退職を強要したものではないし,客室乗務員としての能力を欠いているとの担当者の発言があったとしても復帰者訓練に3回も不合格になっている事実からその発言内容は真実であり,これをもって退職を強要したものとみることはできない。
(4) 判断のポイント 本判決は慰謝料の額などについて改めたものの,解雇の効力や不法行為の成立といった主要な争点では一審の判断を支持し,会社の控訴を棄却している。
 病気による休職が明けて職場復帰した後に行われた解雇の効力が争われた最近の事件としてはアラウン(金員支払)事件(大阪地決平11.4.30労判771号82頁)があり,労務提供義務懈怠が就業日数の3分の1に及び,勤務態度も不良で改善の見込みがないとして解雇が有効とされている。
 本件は,復帰者訓練に合格しなかったことから通常業務遂行も不可能として解雇したものであり,復職し業務についた後に解雇を妥当とするような具体的な問題が生じているわけではない。そうすると,本件では復帰者訓練における不合格との評価が公正に行われたかが問題であり,これに関して二審が,休職期間の途中から執拗に退職を求めるようになったことや休業期間が長期化したこと,休業手続きをめぐる折衝経過などから,「被控訴人を退職させる方針を固め,そのために被控訴人に対する復帰者訓練の評価も特に厳しくなされたのではないかとの疑いも否定できない」としているところが判断のポイントであろう。
 退職勧奨の手段・方法は社会通念上相当なものでなければならず,その態様が強制的であったり執拗なものであったりする場合には不法行為を構成し,損害賠償責任を使用者に生じさせることについては,本判決も一審判決を支持しているところである。ただし,一審では被控訴人が結局退職していないことや被控訴人の態度が会社の担当者の言動を誘発した等を考慮し,慰謝料として50万円が相当としたのに対し,本判決もほぼ同様な事情を考慮したうえで,慰謝料を80万円が相当であると改めている。(なお,最高裁三小・濱田邦夫裁判長は本誌校了時点の本年9月25日,会社側からの上告を棄却する決定をした。)

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