森下仁丹事件


森下仁丹事件
大阪地方裁判所判決 平成14年3月22日

(1) 事件の概要 被告は医療品等の製造・販売を営む株式会社であり,原告は昭和44年以来,被告に雇用され,被告の支店等で就業し,その後平成12年4月より被告本社マーケット開発部の職にあった。この間,原告による業務課の業務において,コンピュータ入力等のミスが発覚し,決済までに修正するように命じられたが原告はこれを放置し,別の新たなミスを生じさせていった。なお,12年8月31日に,原告は同年1月の入力ミスにより決算書が誤って作成されたことについて,始末書を提出した。その後,原告は被告から「技能発達の見込みがないと認めたとき」との解雇事由に基づき,同年12月31日付で解雇する旨の意思表示を受けるに至った。これに対して原告が当該解雇は解雇権濫用に該当するとして地位確認等を求めたものである。
(2) 判断のポイント 本判決は,次の5点を指摘し,未だ原告について被告の従業員としての適格性がなく,解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえないとした。(1)原告はリストラの対象とされた平成8年以前には,おおむね標準の評価を受けていたこと,(2)8年4月以降11年3月までの成績については,被告の営業自体が不振であったことなども考慮すれば,原告の成績不振を一概に非難できないこと,(3)11年10月以降の業務は原告にとって慣れない業務であったこと,(4)被告では原告がミスなく業務を行うことができる職種もあること,(5)被告の就業規則では人事考課の著しく悪い者等について,降格という措置も予定されていること。
 さらに,被告で発生した盗難事件における原告の保管義務の落ち度や経理上のミスが「業務上やむをえないとき」という解雇事由に該当するとの被告の主張について,本判決は,前者については6年前のことであり,またこれらについては顛末書,始末書等の作成が命じられたこと,さらにいずれの事由も通常考えられる「業務上やむをえないとき」の文理に合致するものではないことからすれば,これらが前記解雇事由に該当するとはいえないとして被告の主張を退け,本件解雇は解雇権濫用に当たり無効であるとして原告の地位確認等の請求を認容した。
(3) 参考判例 成績不振あるいは能力不足を理由とする解雇の有効性が争われたケースは近年比較的多く見られる。かかる解雇の効力が肯定されたケースとしては,プラウドフットジャパン事件(東京地判平12.4.26労判789号21頁)がある。本件では,経営コンサルティング会社にインスタレーション・スペシャリストとして中途採用された原告が職務に必要な職務遂行能力を欠くとしてなされた解雇につき,今後も原告を雇用し続けることにより求められている能力や適格性を高める機会を与えたとしても,このような能力や適格性の点において平均に達することを期待することは極めて困難であり就業規則が定める解雇事由に該当するとし,また当該解雇に至るまでに職務変更による雇用継続が提案され,交渉が重ねられた経緯をあわせ考えれば,解雇権の濫用には当たらないとされた。
 他方,解雇の効力が否定されたケースとして,エース損害保険事件(東京地決平13.8.10労判820号74頁)がある。当該判決は,本件解雇の真の理由は作業効率が低いにもかかわらず高給である債権者らの存在が債務者の活性化を阻害するという判断にあったと指摘したうえで,債権者らが債務者の一方的な合理化策の結果,不適切な部署に配置されたこと,債務者らは債権者らを他の適切な部署に配置する意思はなく,研修や適切な指導を行うこともなく,早い段階から組織から排除することを意図して,任意に退職しなければ解雇するとして退職を迫りつつ長期にわたり自宅待機としたことなどを考慮し,本件解雇は解雇権の濫用セして無効であると判断した。また,セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11.10.15労判7734頁)では,相対評価による人事考課が一定以下の従業員に対して,退職勧告などを行った後,就業規則の解雇事由の「労働能力が劣り,向上の見込みがない」に該当するとしてなされた解雇につき,解雇事由に該当するというには平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能力が劣り,しかも向上の見込みがない場合でなければならないとして,当該解雇は解雇権濫用に当たり無効であるとされた。
      (判決文中,原告名ほか一部仮名)

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