セガ・エンタープライゼス事件


セガ・エンタープライゼス事件

東京地方裁判所決定 平成11年10月15日

労働判例770号34頁

1)本件は、会社Yが、平成二年入社の大学院卒正社員である債権者Xを、人事部採用課、人材開発部人材教育課、CS品質保証部ソフ卜検査課等に配置の後、同一〇年一二月、所属未定、特定業務のない「パソナルーム」に配置していたが、人事考課平均値が三点台であるXを含む五六名に退職を勧告し、Xのみが応じなかったところ、就業規則(一九条一項)に定める解雇事由たる「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき(同二号)」に当たるとして(通常)解雇したため、Xが右解雇を無効として、地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めたものである。
(2)本件では、Xの業務能力が争われたが、本決定は、「Xは、人材開発部人材教育課において、的確な業務遂行ができなかった結果、企画制作部企画制作一課に配置転換させられたこと、同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、外注先から苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、加えて、平成一〇年のXの三回の人事考課の結果は、それぞれ三、三、二で、いずれも下位一〇パーセント未満の考課順位であり、Xのように平均が三であった従業員は、約三五〇〇名の従業員のうち二〇〇名であったことからすると、Xの業務遂行は、平均的な程度に達していなかった」旨認め、また、Yの査定は相当程度に客観的で、Xに対し恣意的に行われたとはいえないとして、Xの能力が平均点以上であったとするX側の主張を退けている。
(3)しかし本決定は、Xが従業員として平均的な水準に達していなかったとしても、Yは就業規則所定の「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」を適用してXを解雇したのであるから、これに該当しない限り解雇は認められないとして、右就業規則の該当性を検討している。
そして本決定は、就業規則一九条一項各号に定める解雇事由はいずれも「極めて限定的な場合」に限っているから、同二号の規定についても、同様に限定的に解すべきであり、同号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、「著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないとき」でなければならないと判示し、Yにおける人事考課は相対評価であって絶対評価ではないから、直ちにこれに当たるとはいえないとした。
本決定は、結論として、Yが主張する「積極性がない」、「協調性がない」等の抽象的理由には事実の裏づけがないこと、またYが、教育、指導によりXの労働能率を向上させる余地があったのにこれを怠った事実を加えて、本件解雇を権利の濫用に当たり無効と判断した。
(4)X側は本件仮処分申立てに当たり、YがXを具体的仕事のない「パソナルーム」に異動させ、退職を迫ったものと主張して、右勤務命令の無効確認、ポストにおける従業員たる地位の保全および賃金の仮払いを求めていたが、本決定は、単身生活者たるXの「生活状況、年齢、経歴等を総合考慮して」一年間を限度とする一か月二六万円余の賃金の仮払いのみを認め、他の請求は却下した。
(5)本件は、リス卜ラ解雇が相次いでいる今日、「労働能力が低い者」の大幅な人員整理(退職)を始めた業界大手Y社(従業員数約三五〇〇名)において、退職勧告に応じない(高学歴の)Xに対し、人事考課の平均的な水準に達していないことをもって就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」場合に当たるとして解雇に及んだケースとして注目を引いていた。
本決定は、Xの能力の判定についてかなり詳細な検討を加えており、仮処分決定とはいえ、考課査定が低い者に対しても右のような就業規則の規定が安易に適用されないよう戒め、会社に「解雇回避」の努力を尽くすことを求めたものとして参考に値すると思われる。          (一部仮名)

カテゴリー: 勤怠不良   パーマリンク

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