豊橋総合自動車学校事件


豊橋総合自動車学校事件

教習生との交際及び経歴詐称を理由として使用者がなした懲戒解雇につき、右解雇は無効であるとして、従業員としての地位の確認を求めた仮処分事件。

名古屋地方裁判所判決

1981年7月10日

労働民例集32巻3・4合併号403頁/時報1023号123頁/労働判例370号42頁

〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―経歴詐称〕
 申請人の経歴詐称は刑罰歴に関するものであり、被申請人企業にとって重要であるが、前認定事実によると、右前歴は協会採用時からみて約一六年前、被申請人採用時からみて約一八年前の犯罪に関するものであり、しかもその刑の執行を終ってから一〇年間罰金以上の刑に処せられることなく経過し昭和四八年頃刑の言渡の効力が消滅したものであること、申請人は、前述の如く、協会での調査結果について訂正申立をすべきであるのにこれをしなかった趣旨で経歴詐称を捉られていて詐称についての作為性は少いことが認められ、これら諸事情を総合すると、申請人の右所為は懲戒解雇事由に該当するが、これを理由に申請人を懲戒解雇にすることは著しく苛酷であるというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―経歴詐称〕
 使用者が調査の範囲を限定することなく刑罰歴について質問したときは、労働者は原則として、すべての刑罰歴を回答する義務があり、その場合、少年時代の非行歴は別として、同年代のものであっても、刑事処分として受けた有罪歴を除外することはできず、それが執行猶予付のものであっても同様である。もっとも、刑法第二七条には、刑の執行猶予の言渡を取消されることなしに猶予の期間を経過したときは、刑の言渡はその効力を失う旨が定められており、また同法第三四条の二においては、禁錮以上の刑の執行を終り、その後その者が罰金以上の刑に処せられることなくして一〇年を経過したときは、刑の言渡はその効力を失う旨が規定されている。右は刑の言渡後又は刑の執行後、所定期間内に一定限度以上の罪を重ねないことを条件として、刑の宣告を受けた者に対し、国家として刑の言渡に基づく法的効果を将来に向って否定し、もって犯罪の予防と有罪判決を受けた者の社会復帰を容易ならしめんとする刑事政策的配慮に基づく制度であると解されるから、使用者が労働力を評価、把握する場面に、右刑事政策的配慮が直ちに介入して来るべきものではない。刑の言渡の効力が消滅しても刑の言渡があった事実そのものは消滅しないと解され、またかかる事実の存在そのものが、職種との関連上障碍事情として問題となる場合、換言すればそれが職種との関連において当該労働者の労働力評価に重要な資料となる場合がないとはいえないからである。しかしながら、そのような特別の場合でない限り、使用者としても右規定の趣旨を尊重し、あまりに古い刑事罰についてはこれを調査の対象から除外すべきであり、その意味で刑罰歴についての調査の範囲については一定の限界があるというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―信用失墜〕
 申請人の信用失墜行為は、被申請人の社会的評価の低下、企業秩序の紊乱及び取引上の損失をもたらしたが、前認定事実によると、社会的評価の低下、企業秩序の紊乱等は噂が原因となったものであり、いわば一過性のものというべく、また取引上の損失も質的にはともかく、損害額として具体的に把握できないことが明らかであり、これを量的には過大に評価することができないこと、そして申請人とAとの交際は、発端から問題化する過程を含めてA側に原因があり、Aは申請人との関係では被害者とはなっていないこと、申請人が所属する被申請会社労働組合も女性教習生と従業員とのトラブルは企業経営に悪影響が出ることを理解しており、申請人若しくは他従業員につき同種事件の再発の虞は少いと考えられること等が認められ、これら諸事情を総合すると、申請人の右所為は懲戒解雇事由に該当するが、これを理由に申請人を懲戒解雇にすることは著しく妥当を欠くものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―会社中傷・名誉毀損〕
 就業規則に定める解雇事由の要件につき判断するに、前同条同号は、故意又は重大な過失によって会社に損害を与えた場合を懲戒解雇事由としているが、前認定にかかる被申請人の事業目的、業務内容及び業務の社会的意義等を総合すれば、被申請人にとって単に財産上の利益に限らず、名誉、信用等社会的評価の確保も会社の存立ないし事業の運営に不可欠であると解され、従って右規定にいう会社の「損害」とは、財産上の積極、消極各損害のみならず、それを発生せしめる虞のある会社の業務阻害、取引阻害を含み、さらには指定自動車学校として有する社会的評価の低下毀損ないしは同評価の向上阻害までを含むと解するのが相当である。なお他の解雇以外の懲戒解雇事由との対比上、右損害は解雇に価する程度に顕著又は重大なものでなければならないことは当然である。
 そして右の如き損害を生ぜしめる行為の態様については特に就業規則上限定的表現はないから、原因としての行為の態様としては結果として前記の如き損害を生ぜしめる一切の行為を指し、それが企業内非行(就業時間中又はこれに近接した時間内に行われたもの、企業施設内又はこれに近接した場所で行われたもの、若しくは業務関連性のもとで行われたもの)か企業外非行(右以外のもの)かを問わないと解される。懲戒権はその目的が職場秩序の維持、企業運営の保持にある以上、企業外の行為によって、その結果が企業のうえに生じ職場秩序が紊乱される関係にある場合を特に除外する合理的理由はこれを見出すことができないからである。尤も企業外の非行によって会社に損害が発生したか否か、ことに会社の社会的評価の低下毀損が生じたか否かの判定は客観的になすことを要しその判断は慎重でなければならない。例えば被用者の企業外の行為は、それ自体が破廉恥なものであっても、これを評価する者においてあくまで被用者個人の私生活上の行為であり、使用者の社会的評価とは無関係であるとの理解が得られる場合があり、かかる場合には企業にとって損害が生じているかの如く見えるが、客観的には社会的評価の低下は生じないと解されるからである。
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