スーパーバック事件


スーパーバック事件

経歴詐称を理由とする懲戒解雇につき、懲戒事由にならない等として労働契約の存在の確認を求めた事例。(棄却)

東京地方裁判所判決

1979年3月8日

労経速報1012号8頁/労働判例320号43頁

労働契約締結時の就業規則に労働者の経歴詐称を懲戒事由とする旨の明文の規定があり、さらに、労働者が契約締結時に署名した労働契約書にも、経歴詐称を解雇事由とする旨の明文の契約条項があったにもかかわらず、労働者が意識的にその経歴を詐称して労働契約を締結したものであり、しかも、その経歴詐称が、経歴の重要な部分にわたるうえ、使用者の提示した求人条件にも触れるなど、使用者が労動契約の締結前に労働者の真実の経歴を知っていたならばその契約を締結しなかったであろうと認められる程の重大なものである場合には、それが労働契約締結時に生じた事由にすぎないものであっても、また、その経歴詐称のために、労働者の債務の履行に著しい障害が生じるなどして、使用者の業務の遂行に現実的かつ具体的な支障が生じる場合でなくても、使用者は、その経歴詐称を理由として労働者を懲戒処分することができるものと解するのが相当である。けだし、すでに述べたとおり、労働契約関係のような継続的契約関係の円滑、健全な進展は当事者相互間の信頼関係を無視しては考えられないところ、労働者による右のような意識的かつ重大な経歴詐称の背信性は、それが労働契約関係の将来に及ぼす影響から見て、これを契約締結後に行なわれる労働者の各種背信行為のそれと区別して取り扱わなければならない実質的な理由はないのみならず、右のような意識的かつ重大な経歴詐称が判明した場合においても、すでに契約が締結されている以上、使用者がこれを黙過しなければならないとすれば、経歴詐称による契約の締結もそれが成功すれば是認されるかのような不当な結論を肯定することになるとともに、使用者は従来行なってきた従業員の採用方法やその配置計画等に重大な検討、変更を加えることを余儀なくされ、ひいては企業秩序の全体にも少なからぬ影響を受けることになりかねないからである。他方、右のような意識的かつ重大な経歴詐称によって労働契約を締結した労働者は、その契約締結の当時から将来経歴詐称を理由とする懲戒処分を受けるかもしれないことを十分に覚悟していたものというべく、従って、後日その経歴詐称が発覚した場合に使用者からそのことを理由にそれ相当の懲戒処分を受けたとしても、格別不測かつ不当な不利益を受けたことにはならないというべきであるからである。
 なお、労働者の意識的かつ重大な経歴詐称によって労働契約が締結された場合には、使用者からの錯誤による意思表示の無効の主張または詐欺による意思表示の取消しの主張等の許されることがあるとしても、それと選択的に、使用者による懲戒処分を認めることは格別不都合なことではないというべきである。
 およそ近代的な労働契約は、労働者が一定の労働力を使用者に提供することを目的とする契約にすぎないのであって、労働者がその全人格を使用者の支配下に置くことを目的とする契約でないことはいうまでもないから、労働契約の締結に当り、使用者が労働者に対して労働力の提供とはあまり関係のない事項について申告するよう求めた場合には、労働者がその申告を拒否したり、その事項に関する正確な事実を申告しなかったりしても、そのことをもって、労働者を非難したり、労働者に不利益を課したりすることは許されない。しかしながら、本件で問題になっている労働者の学歴及び職歴は、労働者の提供する労働力自体の内容、性質、能力等を評価するための重要な要素であるとともに、労働契約締結後の労働条件、労務の配置計画等を決定するための重要な判断資料ともなるものであるから、労働契約の締結に当り、使用者が労働者に対してその学歴及び職歴の申告を求めたり、その調査を行なったりしても、その方法が違法、不当であるなどの特別の事情のない限り、これを違法、不当ということはできない。のみならず、労働者が使用者からそれらの申告を求められた場合には、労働者は、少なくともそのうちの重要な部分については、これを正確に申告する信義則上の義務を負うものというべきである。けだし、労働契約も人間と人間との継続的な契約関係であって、その契約関係の円滑、健全な進展は当事者相互間の信頼関係を無視しては考えられないところ、労働者が労働契約の締結に当り前記のような性格を有するその学歴及び職歴の重要な部分を意識的に詐称するようなことは、契約締結の当初から当事者間の信頼関係を著しく損ねるものであって、信義則上許されないことであるといわなければならないからである。従って、もし労働者がこの信義則上の義務に違反して学歴及び職歴の重要な部分を詐称した場合には、その労働者は、使用者から、その詐称を理由に非難されたり、それ相当の不利益を受けたりしてもやむをえないものというべきである。

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