日本鋼管鶴見造船所事件


日本鋼管鶴見造船所事件

東大在学中を中卒とする学歴詐称やその他職歴、家族状況等についての詐称を理由とする現場作業員に対する諭旨解雇の効力が争われた事例。(請求棄却)

横浜地方裁判所判決

1977年6月14日

タイムズ365号375頁

そもそも、使用者が労働者を雇用する際に、学歴、職歴等その経歴を申告させるのは、これら労働者の過去の行跡をもって従業員としての適格性の有無を判断し、かつは、採用後の賃金、職種等の労働条件につき、これを正当に評価決定するための資料を得ることにあるから、これに、所謂終身雇用制が一般化して、雇用契約関係は労使双方の相互信頼を基調とする継続的な人間関係にまで及んでいる現状を合わせ考えると、労働者は、雇用されるに際し、その経歴等の申告を求められたときには、使用者に叙上の諸点についての認識を誤らせないよう真実のそれを申告ないし回答すべき信義則上の義務があるものというべきである。したがって、労働者が経歴等を詐称して雇用された場合には、右信義則上の義務に違背しているのみならず、使用者の欺罔された容態のもとにおいて、本来従業員たりえないのに従業員たる地位を取得し、さらには、あるべきものと異なる職種賃金を得て企業内の適正な労務配置、賃金体系等を乱していることになるから、就業規則あるいは労働協約においてかような経歴詐称を懲戒解雇事由として規定することには、それなりの合理的な理由と必要性があるというべきである。
 原告は、経歴詐称は、労働契約成立過程における問題にすぎず、経営秩序を侵害するものではないので、懲戒事由たり得ないと主張するが、上来の説示から明らかなように、右主張は、採ることができない。
 (2)次に、前記条項にいう「重要な経歴をいつわり」とは如何なる場合をいうかを考えるに、それは、経歴のうち、使用者の認識の有無が当該労働者の採否に関して決定的な影響を与えるものについての秘匿又は詐称、換言すれば、労働者が真実の経歴を申告ないし回答したならば、社会通念上、使用者において雇用契約を締結しなかったであろうという因果関係の存在が認められる場合をいうものと解するのが相当である。
 (中 略)
 (人証略)に徴すれば、被告における現場作業員の募集は、職種及び同僚、上司との協調、和合などを配慮して、その学歴を前記のとおり「中卒又は高卒」に限定したものであり、したがって、原告についてもその申告のとおり中学卒と信じたからこそ採用したものであり、もし真実の学歴を知らされ、東京大学にまで入学している者であることを知っていたならば、上記観点から原告を採用しなかったであろうことが認められる。
 (中 略)
 原告の虚偽申告の内容、程度、それに経歴詐称が発覚するまでの経緯、さらには、(証拠略)によって、原告は、日本鋼管造船労働組合連合会との協定に基づきその職場で実施されている始業時間前の準備体操にも参加しないなど上司、同僚との協調性、連帯性に欠けるところが看取されることなど諸般の状況を総合して判断すれば、被告において懲戒解雇を原則としている経歴詐称につき、いわば減刑処分にあたる諭旨解雇を選択したことには合理的な理由があり、これをもって裁量権の行使を誤ったものとは到底評価し難い。

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