三愛作業事件


三愛作業事件

名古屋地方裁判所決定

1980年8月6日

労働民例集31巻4号851頁/時報983号122頁/労働判例350号28頁/労経速報1070号9頁

〔労働契約―試用期間―法的性質〕
 申請人は、本件解雇の当時三か月の期間を定めた試用の地位にあたったものであるから右解雇が無効であるとしてその地位を保全するには、右試用期間が本件解雇の日から本裁判告知の日までその進行を停止していたものとして扱うのが相当である。従って地位保全の仮処分としては、申請人につき、被申請人との間でなお試用期間を付した労働契約上の権利を有する地位にあると定めるをもって足るというべきであり、現段階において試用期間を越えて本採用者としての地位を保全するのは相当でないと考えられる。そして前記のとおり、被申請人の就業規則二五条には、試用期間は原則として三か月とするが場合によってはこれを伸縮することができる旨の規定があること、申請人の本件試用期間は一か月余を経過したときから解雇のためその進行を停止していたものと解すべきこと、また被申請人が試用期間を原則として三か月と定めたのは、少なくとも右程度の期間継続して観察するのでなければ当該労働者の職業能力及び業務適性を判断することができないとの趣旨にもよるものであると考えるのが相当であること等の事情もあわせ考慮すれば、本件の場合、本裁判告知の日から更に三か月の試用期間を設定するをもって相当とすべく、従って同限度において申請人の地位保全の必要性を認めるのが相当である。
 〔労働契約―試用期間―本採用拒否・解雇〕
 一般に、使用者が労働者を雇傭するに際して一定期間の試用期間をおく趣旨は、採否決定の当初において、その者の職業能力及び業務適性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない適切な判定資料を蒐集することが十分にできないため、その後における調査や観察に基づき、その者の職業能力及び業務適性を判断し、これらを欠くと認める者を企業から排除することができるようにすることにあるものと解せられるところ、本件記録によれば、被申請人の就業規則二五条には「会社は就業を希望する者の中から選考の上、所定の手続を経て試用期間を終了した者を作業員として採用する。試用期間は原則として三ケ月とする。但しその者の技倆、経験、勤惰を考慮して適宜試用期間を伸縮することができる。但し、招致採用されたものは、試用期間を置かないことがある。」との規定があること、被申請人の現場系船内部門は、本採用労働者からなる一班ないし八班及び陸勤班、季節労働者からなる一一班並びに試採用労働者からなる割込班に区分され、割込班に所属する労働者は、その日の作業に応じ適宜右各班に組み入れられてその作業に従事すること、被申請人は、試用期間中に、当該労働者の勤務成績、人格等について検討し本採用の適否を決定していること、港湾荷役作業は厳しい労働条件下の肉体労働であり、実験労働の必要が肯定される職種であることが一応認められる。
 右事実に照せば、申請人と被申請人との間に締結された本件契約は、試用期間中に被申請人において職業能力及び業務適正を調査し、これらを欠くと認めるときは解雇できる旨の解雇権が留保された期間の定めのない労働契約であるということができる。
 (中 略)
 そこでつぎに右試用期間を付した労働契約における解約権行使の基準につき考えるに、一般的に言って、試用労働者は、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いったん、被申請人との間の雇傭関係に入った者であるから、右立場は十分尊重するに値するものであり、右解約権の行使は、前記解約権留保の趣旨、目的に照して、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。これを詳論するに、前記の如く試採用者の地位はこれを十分尊重すべきではあるが、本採用者以上のものとはいえないから、本採用者に対して認められている一般の解雇事由は、特に性質に反しない限り試採用者に対しても承認されなければならない。例えば就業規則に懲戒解雇事由が掲げられている場合、これに該当するときは、試用者といえども解雇を免れることはできないというべきである。そのほかに本採用者にはみられない試採用者に対してのみ適用される特有の解約事由が考えられる。それは結局採用決定後に、その者の職業能力または業務適性を否定することが客観的に相当であると認められる事実が判明した場合であり、このようなときにも右解約権を行使することができると解すべきである。けだし試用期間を付した契約本来の目的はそこにあるからである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―経歴詐称〕
 使用者が労働者を採用するにあたって、履歴書等を提出させその経歴を申告させるのは、労働者の資質、能力等を評価し、当該企業の採用基準に合致するかどうかを判定する際の資料とするほか、採用後の労働条件の決定及び労務配置の適正を図るための資料に供するためであるから、使用者側から、このような資料の提出を求められ、あるいは採用面接の際に自己の経歴等について質問された場合、真実を告げることは、信頼関係を基礎とする継続的契約たる労働契約を締結しようとする労働者に課せられた信義則上の義務といわなければならない。従って、労働者が、このような場合、自己の経歴について虚偽の事実を申述することは、重大な信義則違反行為であるとともに、使用者をして労働力の評価を誤らせ、ひいては企業の賃金体系を乱し適正な労務配置を阻害するおそれがあるから、使用者が就業規則において経歴詐称を懲戒処分事由と定めることは原則として是認されるべきである。
 そして経歴の中でも最終学歴が、労働者の資質、能力を判断するための重要なる要素であることは一般に承認されているところであり、本件懲戒事由にいう「重要な経歴」に当ることは明らかである。すると申請人が最終学歴が大学中退であるにも拘らず、高校卒と申述したことは重要なる経歴を偽ったことに該当し、それが低位への詐称であるからといって「詐称」に当らないということはできない。
 〔解雇―解雇事由―経歴詐称〕
 被申請人は、作業員増強計画のもとに求人活動を行っていたものであるが、その発表された採用条件については、特に大学在籍者は採用しない旨学歴の上限を画することはせず、むしろ「学歴不問」としたり、また下限についても必ずしも明確ではなかったというべきである。そして本件は、このような採用条件の不明確さが重要な場面で影響したと考えられる(もし求人案内等に高学歴者不可の記載があれば応募を断念したかも知れないし、また面接時に条件の明確な説明等があれば採用を防止することが可能であったとも考えられる)のであって、これら事情に加え、職種が港湾作業という肉体労働であって学歴は二次的な位置づけであること、大学中退を高校卒としたものであって詐称の程度もさほど大きいとはいえないこと等を総合すれば、本件学歴詐称は、それ自体信義則に反するものではあるが、それのみを理由に一旦採用された者を解雇するのは著しく妥当を欠き、解雇権の濫用であると判断される。

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