宮城県立高等学校教諭懲戒免職


宮城県立高等学校教諭懲戒免職

仙台地方裁判所判決 平成23年10月27日

【判示事項】
県立高校の教員が,出勤時に酒酔い運転をした上,路上の駐車車両に追突し,同車両の運転者に加療2週間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせたこと等を理由に懲戒免職処分をされた事案について,非違行為の態様,結果等を踏まえると,同教員の心身の状態(うつ状態,アルコール依存症)や校長による対応の不十分さ等の事情を考慮しても,処分行政庁の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用はなく,手続的にも違法はないとして,上記懲戒免職処分の取消請求を棄却した事例

主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
宮城県教育委員会が原告に対して平成20年8月19日付けでした懲戒免職処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,宮城県教育委員会(以下「処分行政庁」という。)が原告に対して平成20年8月19日付けでした地方公務員法(以下「法」という。)29条1項1号及び3号並びに職員の懲戒に関する条例(昭和26年宮城県条例第52号。以下「県条例」という。)に基づく懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)につき,原告が,被告に対し,本件処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであり,また,適正手続に違反するものである旨主張して,本件処分の取消しを求める事案である。
1 前提事実(争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨等により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は,昭和62年に教員免許を取得した後,昭和63年4月に宮城県の高等学校の教諭に採用され,平成8年4月からA高等学校(以下「本件高校」という。)電子機械科(夜間定時制)に勤務していた者である(争いがない)。
(2) 交通事故の発生等
原告は,平成20年7月29日午後1時ころ,市道に自家用車を駐車しようとした際,運転操作を誤り駐車中の車両に追突して損傷を与えたほか,同車両の運転者に加療2週間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。その際の呼気検査により,原告からは呼気1リットル当たり0.5ミリグラムのアルコール濃度が検出されたため,原告は酒酔い運転で逮捕された(以上につき,乙15,30,弁論の全趣旨)。
(3) 本件処分の経緯等
ア 飲酒運転に関する指針等の定め
宮城県教育庁が定めた飲酒運転を行った教職員に対する懲戒処分原案の基準(以下「本件基準」という。)によれば,平成18年1月1日以降,教職員が飲酒運転を行った場合,懲戒免職又は懲戒停職5月以上の処分を行うとし,処分に当たっては懲戒停職5月を標準として,当該教職員の職位,当該行為の内容,被害の有無及び程度等の事情により,処分を加重するとされている一方,教職員が飲酒運転により人身事故を起こした場合は,懲戒免職又は懲戒停職6月以上の処分を行うとされている。
また,人事院が定めた懲戒処分の指針(平成20年4月1日改正によるもの)によれば,酒気帯び運転による人身事故を起こした職員は免職又は停職とする旨定める一方で,酒酔い運転をした職員は,免職又は停職とするとし,更に人身事故を伴う場合については免職とする旨定められている(以上につき,乙4,5)。
イ 本件処分の内容
処分行政庁は,平成20年8月19日,原告に対し,本件事故について,下記の事由(以下「本件処分事由」という。)を理由に,法29条1項1号及び3号並びに県条例の規定により懲戒免職を内容とする本件処分をした(以上につき,甲1,2,弁論の全趣旨)。

原告は,平成20年7月29日午前4時ころ自宅で飲酒し,さらに,同日午前9時ころにも飲酒し,仮眠した後,同日午後0時15分ころ,学校に出勤するため自家用車を運転して自宅を出た。運転の途中,同日午後1時ころ,仙台市a区bc丁目地内の市道に自家用車を駐車しようとした際,運転操作を誤り駐車中の車両に追突して損傷を与えたほか,相手方にけがを負わせた。その後,通報により駆け付けた警察官から呼気検査を受けたところ,呼気1リットル当たり0.5ミリグラムのアルコール濃度が検出されたことから,酒酔い運転で逮捕された。これらのことは,全体の奉仕者たる公務員としてあるまじき行為であるとともに,被告の教育行政及び教職に対する信用を大きく失墜させるものである。
ウ 原告に対する刑事処分の内容
原告は,平成21年2月17日,仙台簡易裁判所において,道路交通法違反(酒酔い運転)の罪により罰金70万円の略式命令に処せられた(乙10)。
(4) 行政不服審査請求及び本件訴訟の提起
原告は,平成20年10月9日,宮城県人事委員会に対し,本件処分の取消し又は修正を求めて審査請求をしたが,平成22年7月6日付けで同請求を棄却する旨の裁決がされたため,同年10月1日,本件訴訟を提起した(甲13,顕著な事実)。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件処分について,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用による違法があるか否か(争点1)
ア 原告の主張
懲戒処分を行うに当たっては,被懲戒者の置かれた状況やその原因,非違行為に至った経緯等の事情を考慮して,他の事案との均衡も図りながら処分を決定すべきところ,原告は,①生徒が滞納した授業料等を立て替えるなどしたことにより生徒指導上の悩みを抱えて飲酒量を増加させた結果,頭のしびれ等の症状により若年性脳梗塞との診断を受けるとともに,遅くとも平成18年ころからうつ病にり患し,平成20年ころにはアルコール依存症と診断され,②本件事故当時,本件高校内でパニックを起こし,抗うつ剤や睡眠導入剤等の処方を受けるなど,極めて体調の悪い状態にあったが,本件高校の校長は,原告やその妻からそのような状況を伝えられて心療内科の受診を勧めるなど原告の心身の状態が非常に悪い状態であることを認識していたにもかかわらず,原告に対し,病休を取得するよう指導し,又は原告の代わりに講師を雇う等の措置をとらなかった。そのため,原告は,本件事故当日も,残り少ない年休をこれ以上減らすことはできないと考え,どうしても出勤しなければならないと思い込んで酒酔い運転をするに至ったものであり,このような背景事情に照らせば,本件処分は重きに失するというべきである。
また,飲酒の上でセクシャルハラスメント行為やわいせつ行為に及んだ教員や,酒気帯び運転をした公務員に対する懲戒処分が減給や停職にとどまっていること,本件と同様に飲酒運転による人身事故を起こし,報告が遅延した事例でも,教育職員以外の県職員については停職処分にとどまった例があること,公立学校の教員が懲戒免職の処分を受けた場合,教員の免許状はその効力を失うとされていること(教育職員免許法10条1項2号)からすれば,他の事例や一般職員との比較の観点からも,本件処分は重きに失しているといえる。
以上より,本件処分には,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用による違法がある。
イ 被告の主張
本件処分事由は,酒酔い運転による人身事故を内容とするものであるところ,人事院の定める公務員の懲戒処分の指針では,一律,懲戒免職とされているのであるから,本件基準によっても,原則として懲戒免職とされるべきであり,被処分者に特段の宥恕すべき事情がある場合に停職処分にすべきものである。そして,教員が酒酔い運転により人身事故を起こした事例では全て懲戒免職処分とされていることに加え,原告のうつ病が本件事故当時には判明していなかったこと,本件事故と原告のうつ病とは直接の関連性を有しないこと,原告が病休を取得できなかったのは,原告が本件高校に対して医師の診断書を添付した上で申請しなかったためであり,原告自身の責任によるものであることなどからすれば,本件処分につき原告に有利に斟酌されるべき事情はなく,原告には原則どおり懲戒免職処分がされるべきであるから,本件処分について,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用による違法はない。
(2) 本件処分について,適正手続を保障した憲法31条の違反が認められるか否か(争点2)
ア 原告の主張
適正手続を保障した憲法31条は,刑事処分のみならず行政処分についても適用されるところ,適正手続が保障されたというためには,形式的のみならず,実質的に告知弁解の機会が与えられる必要がある。しかしながら,本件高校は,原告がうつ病及びアルコール依存症により3か月間の入院をする予定であった上,記憶もあいまいな状態になっていたにもかかわらず,原告に対して,妻の同伴も許さず,休憩時間もないままに事情聴取を行っており,原告の心身の状態に全く配慮していないので,実質的な告知弁解の機会を与えたということはできない。現に,本件高校による事情聴取では,原告は,本件事故当日の飲酒時刻について,午前2時と午前4時の2回と記憶しており,午前9時に飲酒した記憶を有していないにもかかわらず,警察での取調べにおいて午前9時に飲酒したとの記憶を刷り込まれたため,その内容と統一するよう要求されたものであり,処分行政庁による事情聴取も入院時刻直前に実施されるなど,原告が自らの記憶どおりに事情を話すことのできない状況下で事情聴取が行われている。被告は,うつ病やアルコール依存症にり患した原告を,一刻も早く本件高校から排除することを意図して事情聴取を行ったというべきであるから,本件処分は憲法31条に違反するものとして取り消されるべきである。
イ 被告の主張
本件処分事由が,勤務時間中に発生した飲酒運転による人身事故を内容とするものであること,一般に時間の経過により記憶の変容や供述の変遷が生ずることからすれば,背景事情を含めて事故直後に事情聴取を行う必要性が高いというべきである上,いずれの事情聴取についても,医師が事情聴取の実施は不可能であると指摘したなどの事情はない。また,本件高校や処分行政庁による事情聴取の実施回数は2回にとどまり,合計時間も4時間弱と比較的短時間であること,警察官による取調べにおいても原告には付添人が付いておらず,取調時間も,本件高校や処分行政庁による事情聴取時間に比べて圧倒的に長時間であったところ,原告において警察官による取調べには不服がないとしていることからすれば,被告による事情聴取が警察官による取調べに比して過酷とはいえず,事情聴取は相当な方法で行われたというべきであるから,憲法31条に違反しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 本件処分事由に係る原告の酒酔い運転行為及び人身事故を起こした行為(以下「本件非違行為」という。)が,法29条1項1号及び3号の定める行為に該当することは明らかであるから,以下,上記行為に対する処分として,本件処分が,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用により違法であるか否かについて検討する。
(2) そもそも,地方公務員について,法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の非違行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等の諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるものと解すべきである。したがって,懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法にならないものと解すべきである(最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁,最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
(3) そこで,上記解釈に照らして本件について見るに,前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件非違行為の原因,動機,本件非違行為前の態度等
原告は,本件事故当日である平成20年7月29日の午前中2回にわたり自宅で焼酎を飲んだ上で仮眠し,その後,同日午後0時ころに起床したため,午後0時30分の出勤時刻に遅刻すると考え,自家用車を運転して自宅を出たが,運転開始後に体調が優れないため通常の運転が困難であると感じて何回か停車したものの運転を継続し,運転開始後30分ないし40分が経過した時点で,もう運転はできないと考えて駐車しようとした際に,運転操作を誤って本件事故を起こした。なお,原告の妻は,同日午前8時ころ,寝たままの原告に対し,医師に処方されていた抗うつ剤を服用させた後,原告が再び起床する前の午前11時50分ころ,出勤のため家を出た(以上につき,甲18,19,乙23,30,原告本人38頁ないし40頁,50頁,弁論の全趣旨。なお,原告が飲酒した具体的な時刻については当事者間に争いがあるものの,出勤当日の午前中2回にわたり飲酒した点には争いがなく,その具体的時刻の違いによって本件処分の適法性の有無についての結論が左右されるものとは考えられないので,上記記載の限度で認定することとした。)。
イ 本件非違行為の性質,態様
本件事故の際,原告からは呼気1リットル当たり0.5ミリグラムのアルコール濃度が検出された上,その言語態度や歩行状態,酒臭や顔色,目の状態等から酒酔い状態であると認められるものであった(前記前提事実(2),乙29)。
ウ 本件非違行為の結果等
原告は,本件事故により,追突した車両を損壊するとともに,同車両の運転者に加療2週間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた(前記前提事実(2))。
エ 本件非違行為後の態度
原告は,本件事故後,本件高校に年休を取りたい旨の連絡を入れたものの,本件事故を起こしたとの報告をせず,本件高校に本件事故が発覚したのは処分行政庁からの連絡によるものであった(原告本人40頁,証人B10頁)。
オ 処分歴等
原告は,平成19年6月に時速20キロメートル超過の速度違反で取締りを受けたほかは,処分歴がない(弁論の全趣旨)。
(4) 前記前提事実及び上記(3)で認定した事実を基に,本件処分の適法性について検討するに,本件処分事由が酒酔い運転による人身事故を内容とするものであり(前記前提事実(2),上記(3)イ,ウの認定事実),原告が,本件事故当日の午前中2回にわたって飲酒した上で運転行為に及び,運転行為中も正常な運転が困難な状態にあることを認識しながら,あえて30分以上も運転を継続していること(上記(3)アの認定事実)からすれば,本件非違行為の態様は相当危険かつ悪質であり,被害者に生じた結果も軽視できない。
また,原告は,本件事故後も本件高校に有休を取る旨の連絡をしていながら本件事故を自ら申告しておらず(上記(3)エの認定事実),本件事故後における原告の態度は良好なものとはいい難い。
これらの事情からすれば,原告に上記(3)オで認定したもの以外に処分歴がないことなどを考慮しても,原告に対する懲戒処分として懲戒免職を選択した本件処分が,処分行政庁に認められた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。
(5) 原告の主張に対する検討
ア これに対し,原告は,本件事故当時における原告の心身の状態や本件高校の校長による対応の不十分さ等の背景事情からすれば,本件処分は重きに失する旨主張する。
たしかに,証拠(甲18,19,証人B7頁ないし9頁,23頁ないし28頁,原告本人8頁ないし17頁,34頁,35頁)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時の原告の心身の状態等について,前記第2の2(1)アにおいて原告の主張する事実(原告がアルコール依存症の診断を受け,その治療に苦心していたほか,本件校長から心療内科の受診を勧められ,医師から抗うつ剤,睡眠導入剤の処方を受け,悩みがちであったこと,本件高校の校長が,本件高校の人員体制等を重視して,原告に対し,病気休職の措置を講じることなく勤務を継続させ,原告の病気について配慮を欠く言動をとることがあったこと等)が認められ,これらの事実に照らすと,本件高校の校長の原告に対する対応に,原告の心身の状態への配慮に不足する部分があり,原告が本件事故当日にどうしても本件高校に出勤しなければならないと思い込んだ点についても無理からぬ面があったことは否定できない。
しかしながら,原告は,本件事故当日の運転の過程で,正常な運転が困難な状態にあることを認識していたものであり,しかも,いかに出勤時刻に遅れてはならないと思ったとはいえ,本件全証拠によっても,原告において,速やかに学校に連絡,相談するとともに,タクシー等,原告自ら自動車を運転する以外の手段を利用して通勤するなどの手段を講じることができなかったとは認められない。
このような事実関係の下で,原告が飲酒運転を継続したことは,上記背景事情によって正当化し得るものではないから,上記主張は採用できない。
イ また,原告は,他の懲戒事案との均衡からしても,本件処分は重きに失する旨主張する。
しかしながら,上記飲酒運転の態様及び結果に加え,飲酒運転行為は,原告の指摘するわいせつ行為等と比較しても,それ自体,人の生命,身体に対する重大な危険に直結し得るもので,その根絶が,現在,社会的課題になっていることや,本件処分事由は,酒気帯び運転にとどまらず,酒酔い運転による人身事故を内容とするものであり,このような事由については,人事院の指針によっても懲戒免職に該当するものとされていること(前記前提事実(3)ア),教職員が生徒に対する教育指導を主たる職務内容とする点で他の学校職員とは地位や職責を異にすることに鑑みれば,本件処分は,他の事案と比較して,社会通念上著しく妥当を欠くものということはできない。原告の上記主張も採用できない。
(6) 以上より,本件処分について,処分行政庁が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。
2 争点2について
(1) 原告は,本件処分に係る事情聴取の当時,うつ病やアルコール依存症にり患し,入院が必要な状況にあったのに,本件高校及び処分行政庁は,妻の同伴を許さず,休憩時間もなしに事情聴取を行っており,実質的に告知弁解の機会を付与したとはいえないので,憲法31条の定める適正手続に違反する旨主張する。
(2) 一般に,行政手続は,刑事手続とは性質を異にし,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきであって(最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照),このような観点は,事前に弁明の機会を与えるのが相当と判断される場合において,保障されるべき手続の内容,程度を判断する際にも妥当するものと解される。
(3) そこで,上記のような見地から,本件処分の性質及び本件処分事由の内容を踏まえて,本件における弁明の機会の付与の有無及びその内容について検討するに,前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件高校の教頭及び事務室長は,平成20年7月31日午前11時50分から午後1時20分までの間,本件高校において,原告から,その妻を同席させない形で本件事故に関する事情聴取を行い,その結果を踏まえ,本件高校の校長は,処分行政庁教育長宛てに事故報告書を提出した。原告は,上記事情聴取の際,本件高校側から顛末書を作成するよう指示され,同年8月5日付けで顛末書を提出した(以上につき,乙1,8,22,証人B31頁,原告本人23頁,24頁)。
イ 処分行政庁は,同年8月5日午前10時から午後12時20分までの間,本件高校において,原告から,その妻を同席させない形で本件事故に関する事情聴取を行った(乙22,証人B31頁,原告本人29頁)。
ウ 原告は,同年7月31日,精神科のあるCクリニックを受診し,「うつ状態,アルコール依存症」と診断され,同クリニックから入院先としてD病院の紹介を受け,同年8月1日,同病院を受診した。その際,原告が,担当医師に対し,警察と県の事情聴取があるため同日には入院できない旨告げると,担当医師はそれでも結構だと回答し,同月5日から3か月間の入院を要する旨の診断書を原告に交付して帰宅させた(以上につき,甲4ないし6,原告本人18頁,19頁)。
(4) 上記事実によれば,本件においては,本件高校及び処分行政庁が,原告に対し,それぞれ本件処分に係る事情聴取を実施しているから(上記(3)ア,イの認定事実),原告に対しては弁明の機会を与えていたと認められるので,本件処分が適正手続を保障した憲法31条に反するということはできない。
これに対し,原告は,上記事情聴取において,本件高校側が原告の心身の状態に配慮して,妻の同席を認める等の措置をしなかったため,正確な記憶に基づいて事情を話すことのできる状況にはなかったから,原告には実質的な弁明の機会が与えられたとはいえない旨主張する。
しかしながら,原告から事情聴取があるので即日入院できないと言われた医師がこれを了承して入院日を先延ばしにしていること(上記(3)ウの認定事実)からすれば,原告が本件処分に係る事情聴取の当時,単独で事情聴取に応じることができない状態にあったとは認められない。そして,原告が正確な記憶に基づいて事情を話せなかったとする点は,主に本件事故当日の飲酒時刻に関するものであって,本件処分事由の主要部分である本件事故の態様,結果等についてまで記憶に基づいて話すことができなかったといった事情はうかがわれないから,原告には本件処分事由について弁明の機会が与えられたというべきであって,上記主張は採用できない(なお,仮に本件事故当日における飲酒時刻が原告の主張するとおりであったとしても,本件処分の手続的適法性についての結論に影響を及ぼすものではないというべきである。)。
このほかに,原告は,その妻に対する事情聴取がされなかったことや事情聴取時間の短さなどを理由に,事情聴取が不十分であるとして本件処分の手続的違法性を主張するが,原告が主張する事情聴取の方法,内容は,より望ましい手続であるとの評価ができるとしても,そのとおりに手続を実施しなかったからといって,本件処分を違法とするものとまではいえないから,上記主張も採用できない。
3 以上より,本件処分は適法であると認められ,他に本件処分の適法性を動かすに足りる事実及び証拠はない。
第4 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

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