サンドビック・ジャパン事件


サンドビック・ジャパン事件

札幌地 1982年3月1日

労働民例集33巻2号207頁/労経速報1112号3頁/労働判例383号50頁

〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 一般に、使用者は労働者に対し、労働契約上勤務場所等を限定する明示もしくは黙示の合意がなされていない限り、労働契約に基づき、勤務場所等を具体的に決定して労務の提供を命じうる権限が存するものと解される。しかるところ、債権者は、この点について、債権者は札幌営業所の従業員として債務者に雇用されたものである旨主張し、その提出にかかる(証拠略)(債務者が債権者に対して非公式に採用の内定を通知した書面)中には、債権者を札幌営業所の従業員として採用する旨を記載した部分がある。しかしながら、使用者が労働者を雇用することを決定した場合、これに当面の勤務場所を通知するのは通常のことであって、右の記載部分に、それ以上に、将来退職するまでの間債権者の勤務場所を札幌に限定する趣旨が包合されているとまで解することは、困難であるといわなければならない。かえって、前記のとおり、債権者が雇用された昭和五〇年四月当時には同営業所に勤務する社員は債権者を含めても三名にすぎなかったのであり、また、その三年ほど前には業務上の理由から製品事業部が廃止されていたという事情が存するのであるから、債権者が雇用された当時、債務者において将来いかなる業務上の必要が生じようとも右当時の体制を存続させ、債権者を札幌営業所から移動させないとの意思を有していたとは考えがたく、さらに、債権者が雇用されたのちの前記経緯をみても、債務者は、昭和五三年一月ころから債権者に対して重ねて転勤の意向打診を行っており、疎明資料上、債権者においても、転勤の可能性が存しないことを前提としてこれに対処していたものとは認めがたいのであって、結局、債権者自身の期待はともかくとして、債権者と債務者間の労働契約上、債権者の勤務場所を札幌に限定する明示もしくは黙示の合意がなされていたと認めるべき疎明はない。
 
〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 転勤措置は、労働者の生活関係に少なからぬ影響を及ぼすものであるから、これが無制約に許されるべきものでないことはいうまでもなく、これが相当として是認されるためには、後記の人選の妥当性等とともに、業務上の必要性の存することが必要であると解されるが、他方、転勤措置は、使用者の労働契約に基づく労務指揮権の行使として行われるものであるので、これにつき使用者に相当大幅な裁量権が認められるものと考えられる。そして、転勤措置の前提をなす営業所の閉鎖等の諸方策自体は、前記のとおり、企業経営者の専権に属すべき事柄であって、企業経営につき責任も的確な能力も有しない裁判所がその当否や是非を論ずるのは本来相当ではないことに鑑み、裁判所において、前記の業務上の必要性の存否という観点から右の営業所の閉鎖等の諸方策を吟味する場合においては、これにつき一応の合理性が認められ、また、解雇の口実を作りあげるため等の不当な目的の追求のためになされた等特段の事情が存する場合を除き、企業経営者の判断を尊重せざるをえないものと考えられる。
 このような立場に立って本件をみるに、前記のとおり、債務者は、札幌営業所において製品事業部及び鋼材事業部が相次いで廃止され、営業部門としては金属加工製品事業部のみが残ったため、内勤者に残された事務はファクシミリ、転送電話等の利用により代行しうると判断のうえ、札幌営業所をセールスエンジニア一名の駐在員体制とし、余剰人員一名を折から増員の必要のあった他の営業所に転勤させようとしたものであるところ、前記のとおり、現に、札幌営業所閉鎖前の同営業所における債権者の仕事は、同営業所の取引相手である四社からの電話による在庫照会、電話による受注、Aに対する伝言の取次等が主なものであって、その電話等の数も少なく、反面、債権者が転勤を勧められていた広島営業所においては、債権者と同様の立場にある者が一人で五〇社を相手に同様の仕事をしていたのであり、このような事務量の極端な不均衡に照らせば、債務者が札幌営業所を閉鎖して、その剰員一名を広島営業所に移そうとすることの業務上の必要性については、優に一応の合理性を肯認することができるものであり、また、債権者に対する転勤措置が不当な目的の追求のためになされたものと認めるに足る疎明はない。

 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕
 疎明資料によれば、債権者は、昭和五五年九月に小樽拘置所の刑務官と結婚して現在に至っていることが一応認められるので、債権者が広島営業所に転勤することとなっていれば、少くとも当分の間は夫との別居生活を余儀なくされることになり、また、これに伴い、支出の増加等の経済的な不利益が生ずることも予測されるところである。本件の転勤措置が債権者に及ぼすこのような不利益は、もとより転勤者の人選にあたって十分に考慮されなければならない事柄であるが、しかし、右の共働き夫婦の別居という事態は、債権者が結婚し、かつ、債務者との労働契約関係を継続することを決めた段階において、当然に受けることが予測された不利益の範囲、程度を超えるものとまでは認めがたい。また、疎明資料によれば、債権者の母親は、現在、無職、独居の身で、高血圧、気管支拡張症、過敏性大腸症候群などの持病を有することが一応認められるが、他方、長年学校教員を勤めて年金等により自活の能力があり、また、右の持病も付添看護を要するほどの状態ではないことも一応認められるのであるから、債権者が母親を連れて転勤(疎明資料上、この点については、格別の障害があるとは認められない)しない場合においても、母親との別居は、これをもって特段の生活関係上の不利益とはなしがたく、この点は、債権者の夫が将来債権者の許に転勤した場合に予想された債権者の夫の両親の独居という事態も、疎明資料によれば、債権者の夫の両親には自活の能力があることが一応認められるのであるから、同様である。
 以上の債権者に対する転勤措置の企業経営上の観点からの合理性と、一方、これにより債権者が蒙るであろう生活関係上の不利益の範囲、程度とを比較考量するならば、債権者の主張するように、前記Aが独身の身で転勤による生活関係上の影響は債権者の場合に比して少いであろうことを併せ考えたとしても、債務者のなした人選に人事権の濫用があるとは認めがたい。

 〔解雇―解雇権の濫用〕
 二1 およそ解雇権の行使は、原則的には使用者の裁量に委ねられていると解される(民法六二七条一項参照)が、賃金をその生活の手段とする労働者は、解雇により生活が脅かされることになり、また、再就職しえたとしても、終身雇用を原則とする我が国においては労働条件において種々の不利益が生ずることも否定できないから、右の使用者による解雇権の行使も、解雇時に存在する事情に照らして客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるものと解せられる。

 〔解雇―整理解雇―整理解雇の要件〕
 3 ところで、企業が、その特定の営業所における業務量の減少等に対処して企業運営の合理化をはかるため、当該営業所を閉鎖することは、企業経営者の専権に属するところであると考えられるが、その方策として剰員となった労働者を解雇する場合には、これに前記の解雇権の濫用の法理が適用されることとなる。そして、右のいわゆる整理解雇は、労働者の責に帰すべからざる事情によって、継続的な雇用関係を期待する労働者を一方的に解雇するものであるから、これが正当として是認されるためには、相当強度のやむをえない経営上の必要性に基づくものであることが必要であり、このような必要性に基づくことなく、単に企業運営を合理化するためになされた解雇は、権利の濫用としてその効力を否定せざるをえないものである。しかしながら、企業運営の合理化を策定した企業において、剰員となる労働者の解雇を回避するため、この者を同一企業の他の営業所に転勤させる措置を講じ、右の転勤措置が相当であるのに正当な理由なくこれを拒絶した場合になされた解雇については、前記とは事情を異にするものと考えられる。すなわち、右の転勤措置自体の相当性については、これが解雇とは違って雇用関係の存続を前提とするものであるから、前記の整理解雇の場合とは自ずから別異の要件の下に検討されるべきであるが、右の転勤措置が相当として是認されうるのに、これを正当な理由なく拒絶した労働者に対してなされた解雇については、1に述べた解雇の合理性を肯認するのが信義則に適うところであって、もはや、整理解雇としての前記の経営上の必要性を要件とするものではないと解される。けだし、前者にあっては、労働者の責に帰すべからざる事情による解雇であるから強度の経営上の必要性を要するのに対し、後者にあっては、労働者に相当な転勤措置を講じ、それに従うかどうかの選択の機会を与えたうえでこれに応じない労働者を解雇するのであるから、一面において労働者の責に帰すべき事情に

カテゴリー: 未分類   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>