北越製紙事件


北越製紙事件

新潟地裁判決 1969年10月7日

労働民例集20巻5号1257頁

〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 右に認定した原告X1外四名の収入は、民法五三六条二項但書にいわゆる「自己の債務を免れたるに因りて得たる利益」に該当し、被告会社から受くべき賃金等の請求金額からこれを控除すべきである旨の被告の主張につき考えてみるに、双務契約たる雇傭契約から生ずる労務給付義務および賃金支払義務についても民法の危険負担の原則は当然適用があると解すべきはもちろんであるが民法五三六条二項但書にいわゆる「債務を免れたるに因りて得たる利益」とは債務を免れたこと自体から直接得た利益をいうべきものであつて、単に債務の免脱の機会を利用し、これと別個の原因によって得たにすぎない利益、すなわち債務の免脱と相当因果関係のない利益は包含しないものと解するを相当とするところ、本件における原X1、同X2、同X3、同X4、同X5らの前記解雇後の収入はいずれも被告会社を解雇されて職場を失ったため、右解雇の効力を争って本件訴を提起して訴訟を遂行すると共に、その機会を利用し、自己および家族の生活維持のため本件解雇が無効と確認され被告会社への復帰が実現するまでの間暫定的に労務に従事し、その際得た収入であって、かかる収入は被告会社に対する労務給付義務を免れたこと自体から直接得た利益とはいえないものと認められる。もっとも、右の如く解すると被解雇者は解雇を受けなかった場合よりも多くの利益を得ることになり不合理であるように見えるけれども、賃金のみによって生計を維持しなければならない労働者にとって労働者が自己および家族の生活を維持する程度の賃金を得ることは必らずしも原状回復以上の利益を得るものでないから不合理であるとはいえないのみならず、もし前判示の如く解しなければ、解雇後復職までの間他所で働いた者の方が、右の如き努力を払わず漫然無為に過した者よりも不利となり、また使用者においても被解雇者の労働意欲およびその努力の有無によって償還を受けうるか否かが決せられることになり、極めて不合理な結果とならざるを得ない。
 
〔解雇―整理解雇―整理解雇の要件〕
 企業の整備、再建計画の樹立およびその内容決定等は元来経営者の専権に属するものというべきであるから、一般に会社の経営が困難に陥ったときに、当該企業の整備再建計画にもとづいて余剰とされた人員を解雇することは、それがたとえ従業員の責に帰すべからざる事由による場合であっても、原則として許容されるところであり、たゞその解雇手続が労働協約に違反する場合、解雇が不当労働行為となる場合、あるいは解雇権の行使が権利濫用にあたる場合に限って、右解雇が無効となるに過ぎない。
 
〔解雇―整理解雇―整理解雇基準〕
 使用者たるものは、人員整理(解雇)の必要がある場合であっても、その対象者の選定に当っては主観的恣意的な選定に陥らないよう客観的合理的な基準に基づいてその選定をなすべき信義則上の義務があることは前述のとおりであるところ、被告会社が本件解雇に際してとった前記措置は著しく客観性を欠き主観的恣意的評価の混在するものであったから、結局本件解雇権の行使は、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、権利の濫用として無効といわなければならない。

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