広島硝子工業事件


広島硝子工業事件

広島地裁決定 1976年7月26日

坂本重雄・昭和51年度重要判例解説〔ジュリスト642号〕208頁

解雇は労働者の生活の根拠を剥奪するものであって殊に本件のごとき不況下における整理解雇は、労働者側に責めらるべき事由なくして使用者側から一方的になされるものであること、また不況下であるだけに再就職が容易でなく、高齢者の場合には尚更困難を伴うことなどの事情に鑑みるとき、整理解雇を実施する使用者に対しては解雇権の行使が労使間における信義誠実の原則に適うべきことを当然期待しうべきことであってこれに反する解雇権の行使は、無効と解することができる。
 当裁判所は整理解雇を有効とする要件としてまず企業に長期的な経営不振が持続し、倒産を回避して企業の存続をはかるためには合理化特に人員整理が必要やむを得ざるものであること、つぎに、使用者が解雇に先だち労働者ないし労働組合に対し経営不振の内容を具体的に説明し、人員整理の必要その規模等につき了承を得べく真摯な努力をなしたこと又そのためには配置転換等によって整理必要人員の吸収を計りできるかぎり労働者側の犠牲を少なくする努力を払ったことを要すると解するものである。
 (中 略)
 右認定事実に基づき検討するに、被申請会社が広島工場閉鎖、人員整理の必要性について組合に対して示した説明は客観的裏付があるものではなくこれをもって直ちに申請人らに対し、広島工場閉鎖の必要性を了解すべきことを求めるのは無理といわねばならない。
 もっとも被申請会社が申請人らに対し会社の経理資料を開陳して具体的な説明をしなかったのは申請人らにおいて広島工場閉鎖撤回を固執主張して工場閉鎖の必要性に関する説明を聞く姿勢でなく、従って被申請会社が右説明をなしえなかったことも考慮しなければならないが前記疎明等によれば申請人らは殆んどが広島近辺の出身で被申請会社に雇傭されて以来平均約一五年位の勤務実績を有し被申請会社の業況を体感しているものであって経営が逼迫しているとはいえ昭和四九年九月の決算においてなお相当額の利益を計上して配当していること、またガラス壜業界の不況が進んだ昭和五〇年の段階でも同業の企業で主要工場の全面閉鎖という措置をとったものがないことを認識し又被申請会社自ら組合に対して前認定のように一時帰休実施の際秋口再開を明言していたことであるから、申請人らが被申請会社の前記の説明程度で広島工場を閉鎖し人員を整理する必要性を納得できずこれに反発したことは当然ともいえることであって、被申請会社としても申請人らの切実な要望に理解を示し、経営方針の決定として広島工場閉鎖、人員整理による会社再建案を提示することはよいとしても組合側主張の広島工場を今後も操業し人員整理による合理化をもしないで果して会社経営が成り立ってゆけるか否かにつき組合においても検討させる機会を与えるためにもなお誠実な交渉説得を要するものと認められ、この間にたとえ広島工場の閉鎖がやむをえないとされる場合にも大阪工場への配置転換による人員整理の回避他企業への就職あっせん、希望退職の条件決定等、組合並びに申請人らに対する犠牲を緩和する措置がより広範に実施されうる途が開けると判断するものである。
 その他本件に関し解雇通知が一時帰休実施中になされ申請人らが会社方針を充分検討し会社再建についての建設的な意見を上申するに適しない時期であったと認められること又一時帰休実施前においては労使間に二〇数回の団体交渉がもたれているのに解雇に際しては数回の形式的な交渉に過ぎなかったと認められることに徴し被申請会社が長年勤続の申請人らに対し大量整理解雇を実施するについて信義則上要請される使用者の義務を十分果したとは認められない。よって本件解雇は解雇権の行使が信義則に違反するものとして無効と解すべきものである。

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