日立メディコ事件


日立メディコ事件

最高裁判所第1小法廷判決 昭和61年12月4日

判例タイムズ629号117頁

一、Yは、昭和45年12月1日、契約期間を同月20日までと定め、Xを柏工場の臨時員として雇用し、同月21日以降期間2か月の労働契約を5回にわたり更新してきた。
ところが、柏工場においては、間もなく不況やドルショックの影響により製品在庫が急増し、翌46年9月末には適正在庫量の約2倍の8億余円の在庫を抱えるに至った。
そこで、Yは、柏工場の人員削減計画を作成し、その一環として同工場の臨時員14名全員及びパートタイマー6名を同年10月20日の契約期間満了をもって雇止めとすることにし、同月16日Xらにその旨を告知した。
これに対し、Xは、本件雇止めを無効であるとして、労働契約上の地位の確認等を求めた。
 一審判決(労判270号53頁)は、XとYとの間の労働契約には期間の約定がなかったとした上、YのXに対する解雇には、柏工場の臨時員就業規則74条2項にいう「業務上の都合がある場合」に該当する事情があったものと認めることはできないとして、Xの労働契約上の地位確認請求を認容した。
これに対し、原判決(労民集31巻6号1224頁、労判354号35頁。
判批小宮文人・季労120号130頁)は、一審判決と全く異なる事実認定の下に一審判決を取り消し、Xの請求を棄却したので、Xが上告した。
 二、季節的労務や特定物の製作のような定期的・一時的作業のために雇用される臨時工とは別に、企業の恒常的業務に従事することが当初から予定されながら、主として景気変動に伴う雇用量の調整を図る目的で、短期間の労働契約期間を定め、簡易な手続で採用される臨時工が存在する(判例は、このような労働契約の合理性を認め、期間の定めを直ちに公序良俗に反するものとはしていない)。
そして、このような臨時工契約は、労使双方にある程度の雇用の継続に対する利益と期待を生み、契約が反覆更新されることが少なくない。
このような状態にある常用的臨時工について、ある時期、契約期間の満了後新契約を締結しないという使用者の態度(これを雇止め又は更新拒絶という)によって法律上当然に労働契約終了の効果が生ずるものとするのは労働者の保護に欠ける。
そこで、このような場合の労働者の契約上の地位の保護について種々の理論構成が試みられている(宮本安美「臨時工と更新拒絶」労働法の争点228頁)。
 最高1小判昭49・7・22民集28巻5号927頁、本誌312号151頁(東芝柳町工場事件)は、「いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当」と認められる臨時工契約について、「当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたもの」とし、このような場合、雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たるとの理由により、その雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推すべきであるとしている。
それでは、右判例理論をあてはめ得るほどの契約関係にあるとは認められない場合には、期間満了により契約が当然終了すると解すべきか。
 本判決は、当該契約関係につき、期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には、雇止めについても相応の理由が必要とされるものとして解雇に関する法理を類推し、雇止めの効力を判断してきた裁判例の立場(長崎地判昭39・6・2労民集15巻3号638頁(三菱造船事件。
その上告審判決最高1小判昭48・11・8集民110号407頁)、東京地判昭44・8・19判時589号80頁(サッポロビール事件)、本件原判決など)を確認するものである。
なお、「解雇に関する法理の類推」の具体的意味内容については、原判決の判示を是認する形で判決文に説明されているので、これを参照されたい。
 三、次に、本判決は、Xに対する雇止めの効力を判断すべき基準はいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきであるとする原判決の見解を是認している。
同旨の裁判例に東京高判昭58・9・20労民集34巻5・6号799頁(旭硝子船橋工場事件)がある。
雇止めの効力の判断に当たり解雇に関する法理を類推するのは、雇用関係の継続に対する労働者の合理的な期待、信頼を保護するためであるとすれば、当該労働契約関係において客観的に認められる期待、信頼の性質、程度に応じてその雇止めの効力の判断基準に差異があるとされるのもやむを得ないものと思われる(菅野和夫・労働法145頁にいう臨時労働者の劣後的地位もこのような趣旨であると解される)。
 四、本件においては、人員整理に当たり、本工につき希望退職者の募集をすることなく、まず臨時工の雇止めをしたことの相当性が問題とされている。
 整理解雇の有効性についての判断要素として、(1)整理解雇の必要性、(2)解雇回避の措置、(3)整理基準及び被解雇者の選定の合理性、(4)解雇手続の相当性、の4点があげられている(下井隆史「整理解雇の法律問題」日本労働法学会誌55号23頁、保原喜志夫「整理解雇をめぐる判例の法理(一)」判評275号2頁)。
もっとも、整理解雇の必要性は、a使用者の人員削減の決定が経営上やむをえないものと認められるかの判断と、b剰員解消の方法として解雇の手段がやむをえないものと認められるかの判断とに分けて考える必要があり、右bの判断は解雇回避措置を尽くしたかどうかの判断と重なるから、この意味で、解雇回避措置を尽くすことは整理解雇の必要性判断の一つの要素であるとされる(下井・前掲28頁、保原・前掲(五)判評298号2頁)。
なお、右(1)ないし(4)は、しばしば整理解雇が有効であるための「要件」と表現されるが、これらは解雇権の濫用の有無を判断するための類型的な判断要素として、相対的、総合的に判断すべきものであろう。
 本件においては、Yの人員削減の決定の合理性を肯認するに当たり、柏工場につき独立採算制が採られていることが認定されているが、裁判例は、独立採算制が採られているかどうかにかかわらず、一事業部門の業績悪化を理由とする人員整理の必要性を認めている(東京高判昭54・10・29労民集30巻5号1002頁(東洋酸素事件)、前掲旭硝子船橋工場事件判決)。
 ところで、原判決は、人員削減により柏工場の臨時員全員が剰員となり、これを他の事業部門へ配置転換する余地もない場合に、臨時員全員の雇止めに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法によりその人員削減を図るのが相当であるということはできず、むしろ右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきであるとしたが、この点を肯定したところに本判決の重要な意義がある。
正規従業員の整理解雇を念頭に置くときは、解雇回避措置の一つとして臨時雇の整理が考えられている(下井・前掲28頁、和田良一「人員整理解雇事件の審理」新実務民事訴訟講座11 162頁、富田郁郎「臨時工・パートタイマー・採用内定等の解雇事件の審理」右同一89頁)。
また、景気変動に伴う雇用量の調整を図る目的で、比較的簡易な手続により採用され、作業内容、処遇においても本工とは異なる立場にあって期間の定めのある契約を更新してきた臨時工については、やむを得ない事由により剰員が生じたことをもって解雇の必要性を充足するものと解されている(保原・前掲(四)判評297号5頁)。
本判決は、事業上やむを得ない理由による人員整理の必要に基づき右のような臨時工を雇止めにするについて、少なくとも、その剰員を他の部門に配置転換する余地のないことが認められる場合には、その雇止めに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図るべきであるとまではいえないとするものである。
 本判決が実務に及ぼす影響は大きいと考えられる。

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