わかしお銀行事件


わかしお銀行事件

東京地方裁判所判決 平成12年10月16日

労働判例798号9頁

(1) 事件の概要と判断 本件は,銀行の本店営業部主任調査役だった原告が,支店の副支店長時代に,取引先の不動産会社から個人的に350万円を借り入れ,さらに,渉外業務で知り合った顧客をその取引先に紹介して,不動産取引を成功させた謝礼として約620万円の謝礼を受け取ったことを理由に懲戒解雇されたものの,主位的には解雇無効を主張して雇用関係の存在確認などを請求するとともに,予備的に,解雇が有効であるとしても退職金は支払われるべきだとして争った例である。解雇の効力について原告は,就業規則中で禁止されている金銭の授受等は,被告の利益を害する場合に限られていると主張したが,本判決はこれを退け,また解雇の相当性,手続違反についての主張も退けた。退職金についても,支給規程において懲戒解雇時の不支給が定められていた以上,請求権がないとして棄却している。
(2) 金銭授受と懲戒 取引先からの金銭授受への懲戒処分をめぐる過去の裁判例では,いずれも懲戒解雇ないし諭旨解雇が有効とされている(後楽園スタジアム事件・東京地決昭53.7.13労経速993号15頁、ナショナルシューズ事件・東京地判平2.3.23労判559号15頁mカブコン事件・大平6.12.8労判672号54頁,東京鐵鋼事件・東京地判平9.1.28労経速1633号11頁,大昌貿易事件・東京地判平11.9.30労経速1726号20頁など)。
  本件における金銭の借入れと謝礼の収受の性格は,取引先からのバック・リベートのように,金銭的な不利益を結果的に使用者に与える場合とは若干性格を異にしている。しかし,特定顧客との癒着は,顧客一般からの信頼確保という点のみならず,抽象的ではあるもの業務への危険や支障が存在することは確かであり,このような行為を被告の就業規則が一般的に禁止しているとみることにはそれなりに合理性がある。残る問題は処分の相当性であるが,本判決は,勤続19年の原告に勤務態度・成績に格別不良はないこと,本件行為による実損害や対外的信用毀損はないこと,職員への悪影響はないことなど,原告に有利な事実を勘案しても,原告の受け取った額や立場,その後の対応からすれば,懲戒解雇に処することも合理的かつやむを得ないとした。
(3) 懲戒処分と退職金 ところで本判決は,シンガー・ソーイングーメシーン事件・最高裁判決(最二小判昭48.1.19民集27巻1号)を引用して退職一時金の賃金後払性を肯定しつつ,(1)使用者は労働契約に反しない限り退職金の支給条件をどのように定めることも自由であり,(2)退職一時金には功労報償の性質もあることから,退職金不支給規定が一般的に不合理なものとして効力を有しないとはいえず,また原告被告間の労働契約に反するとまでもいえないとして,請求権を否定している。しかし,懲戒処分の効力をただちに退職金請求権の存否と結びつけてよいのか若干の理論的疑問は残る。このような立場は多くの裁判例もとるところであるが,懲戒処分に関する判断とは別に,退職金不支給とすること自体の合理性が問題となる余地はあろう。判例は退職金の功労報償的性格から不支給ないし減額を認めているのであるから(例えば三晃社事件・最二小判昭52.8.9労経速958号25頁),本件の場合,不支給を結論的に肯定しうるとしても,不支給とするほどの著しい行為ではなかったという原告の予備的主張については前記原告に有利な事実とともに然るべき検討が必要であったように思われる。(原告のほか,判決文中のアルファベット表記は仮名)

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