PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件


PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件
東京地方裁判所判決 平成15年9月25日
労働判例863号19頁

(1)事件の概要 本件は,Y(被告)から解雇されたX(原告)が,Yの解雇は,整理解雇の要件,能力不足を理由とした解雇の要件を欠き無効であるとして,Yに対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認,過去および将来の賃金の支払いを求めた事案である。
 Yは,コーポレイト・ファイナンス,投資銀行サービスに関するコンサルティング,事業再興・再構築に関するコンサルティングなどを業とする会社で,米国に本社を置く監査法人PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の子会社として平成11年に設立された。
 Xは,証券会社等の勤務を経て,米国公認会計士試験に合格し,米国コロンビア大学経営大学院でMBAを取得した後,平成12年10月に,Yとの間で,期間の定めのない労働契約を締結して入社し,財務コンサルタントとして勤務してきた。入社した年の年収は約1100万円であり,13年7月に約1150万円になった。Xは,マネージャー(等級3)として採用されCF&IB部門に属していたが,同部門の分割に伴い,IB部門に所属することになった。
 Yは,1支年2月4日に, IB部門について,リストラの必要があること,XはYで必要とされていないこと,自主的に退職する場合には,割増退職金(給与3か月分)を支給すること等を提示して,雇用契約の合意解約を申し出たが,Xがこれに応じなかったため,Yは,同月12日付でXを解雇した。
(2)本件の争点と当事者の主張 本件の争点は,
(1)本件解雇は,いわゆる整理解雇として有効か,すなわち本件解雇について,就業規則の「事業縮小その他の理由により,社員の削減又は減失が必要となったとき」が認められるか,(2)Xは,就業規則の解雇事由「就業態度若しくは能率が著しく不適当であると認められた場合」または「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき」に該当するか,の2点である。
 争点(1)につき,Xは,本件解雇は,整理解雇の4要件((1)人員削減の必要性,(2)解雇回避義務,(3)基準および選定の合理性,(4)手続きの合理性)を欠くものであって無効と主張し,Yは,Xが所属するIB部門の不振からYの経常利益が落ち込み,IB部門を閉鎖するに至り,14年3月に173名だった社員を,15年7月には122名にするなど合理化が進められており,XはIB部門のマネージャーとしての能力が不足していたうえ,新設されたM&AA部門で要求される能力が不足しており,Xを被解雇者として選定したのは合理性はがあると主張した。また,Yは,Xを含む被解雇者に対し,割増退職金支給を提示して退職勧奨を行い,Xが転職先を探すことに会社として協力をする旨提案するなど,解雇回避措置を実施していたと主張した。
 争点(2)につき,Yは,Yでは専門家としての能力を十分に発揮してもらうことを前提に即戦力を採用し,その見返りに高額な年俸を支給していることなどから,Yの雇用形態は,日本の従来型の雇用形態とは大きく異なっており,期待された実績を上げることができない場合には直ちに雇用契約を解除されるという実態があること,Xは,マネージャーとしての能力に欠け,その評価も極めて低いD評価ないしC評価であったこと,能力不足の一例として,得意先に関する機密を漏洩したことをあげる。これに対し,Xは,本件解雇当時,Yは,Xの解雇に能力不足という理由をあげておらず,これを解雇理由とすることは許されないとし,また,Xの能力が解雇が相当になる程度に不足していたという事実はないし,Yが解雇理由とする機密漏洩についても電話口で詳細な事実までは告げていないことなどから,Xの能力不足を表す事情ではないと主張した。
(3)判断のポイント 本件判決は,争点(1)につき,Yの経常利益の減少の原因は,IB部門の業績不振にあることから, IB部門を閉鎖してM&AA部門を開設し業績向上を図ることには経営上の合理性があり,IB部門に所属していた者について人員整理の必要性はが認められるとした。しかし,IB部門の業績不振の原因,IB部門への人員配置はYの経営判断によるものであったこと,Yは本件解雇に近接して新規採用を行っており,Y全体の経営が逼迫していたとは認めがたいことからすると,Yに対しては,信義則上,高度の解雇回避努力義務が求められ,被解雇者選定の妥当性等についても十分に吟味する必要があるとした。
 次に,判決は,解雇回避努力義務のうち,配転可能性について,Yの評価制度とXに対する評価につき詳細に検討したうえで,XのIB部門における勤務実績においては,Xがマネージャーとしての能力に欠けていたと客観的に認めることはできず,他の部門への配転が不可能であったとすることはできないとした。また,機密漏洩の件も,Xの能力不足を裏づけるものではないとして,Yの主張を退けた。また,被告から原告に対してなされた退職勧奨および割増退職金の提案は,雇用契約を終了させる点において,解雇と異なることはなく,他の解雇回避措置を取ることが困難な場合において,初めて,整理解雇を正当化する要素となる余地があるというべきであり,本件においては,被告は他の解雇回避措置を取ることが困難であったと認めることはできないとして,これらの事実をもって解雇回避努力義務がつくされたとはいえないとし,Yが解雇回避努力義務をつくしたということは困難であるとした。
 そして,Xは,マネージャーとしての能力が著しく劣るということはできず,原告を整理解雇の対象としたことについて,合理性は認められないことから,結論としては,本件解雇については,人員整理の必要性は認められるものの,解雇回避努力義務および被解雇者選定の合理性のいずれの点においても,十分な努力および合理はがあるとは認められず,解雇権を濫用したものとして無効と判断した。
 争点(2)については,Xは,マネージャーとしての能力をおよそ発揮できなかったとはいえず,Yの就業規則の15条b,同dのいずれにも該当せず,本件解雇は解雇権濫用として無効とした。また,Yのような外資系コンサルタント会社およびコンサルティング業界といえども,労働者が賃金によって生計を立てている以上は,キャリアアップに適した転職の機会が訪れるまでの間,会社に在籍することに合理的期待を抱いているというべきであり,その者を解雇するに当たって,客観的で合理的な理由が必要であるということは,他の業界の場合と異ならないとされ,本件の場合においても,被告の雇用形態や原告の年収額を考慮しても,本件解雇につき客観的で合理的な理由があるということはできないと判断している。
(4)本件の特徴と参考判例 本件は,外資系の企業において,比較的高額の賃金で雇用されている専門職に対する,優遇された退職条件を示しての退職勧奨を経ての整理解雇が争われた事案である。Yは,退職勧奨および割増退職金の提案を「解雇回避措置」と主張したが,本判決は,(3)で示したとおり,他の解雇回避措置を取ることが困難な場合において,初めて,整理解雇を正当化する要素となる余地があるというべきであるとしている。また,判示内容(4)のごとく,外資系コンサルタント会社およびコンサルティング業界といえども,労働者は,雇用継続に合理的期待を抱いているというべきであり,その者を解雇するに当たって,客観的で合理的な理由が必要であるということは,他の業界の場合と異ならないとした点も注目される。
 また,本判決の特徴の2つ目として,Yが本件解雇の理由とした,Xの評価に関し,特に解雇直前に評価が低いことにつき,解雇直前の評価が客観的に行われたものであるか検証できないこと,他の従業員の資料の提出がなくXとの比較ができないことなど総合評価すると,XのIB部門における勤務実態においてXがマネージャーとしての能力に欠けていたと客観的に認めることはできないとし,IB部門と職務の互換性がある他部門に配置することが不可能であったとはいえないとした点があげられる。
 本件と類似の事案としては,ナショナル・ウ工ストミンスター銀行(三次仮処分)事件(東京地決平12.1.21労判782号23頁)があり,外資系金融機関のアジア・パシフィック担当部門でアシスタント・マネージャー(年収1050万円)として貿易金融業務に従事していた債権者が,所属部門閉鎖を理由に,割増退職金支給(約1532万円),就職斡旋会社のサービスを受けるための金銭的援助等を提示のうえ退職勧奨および賃金が下がるクラーク(年収650万円)への配転の提示を受け,いずれにも応じなかったところ,解雇された事案である。一次仮処分決定(東京地決平10.1.7労判736号78頁)は,整理解雇の要件に照らして本件解雇を無効としたが,二次仮処分決定(東京地決平11.1.29労判782号35頁)および三次仮処分決定は,整理解雇における解雇権濫用の判断は,事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うべきであるとし,事業部門閉鎖に伴う当該整理解雇は,雇用契約解消の合理性,雇用契約解消後の債権者の生活維持等に対する配慮,解雇手続等に照らし解雇権濫用に当たらないと判断している。本件と結論を異にした理由は,被解雇者の解雇理由(適格性の欠如),配転可能性等の有無等にあるといえよう。
 外資系の整理解雇事案としては,支店閉鎖に伴う整理解雇について争われたシンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件(大阪地判平12.6.23労判786号16頁,解雇有効)がある。なお,プラウドフットジャパン事件(東京地判平12.4.26労判789号21頁)では,外資系経営コンサルティング会社にインタレーション・スペシャリストとして採用された従業員に対する,職務遂行能力欠如等を理由とする解雇が有効とされた。すなわち,経営コンサルタント未経験であったとしても,一定期間(1年半)稼働後,なおも当該専門職に求められる能力や適格性がいまだ平均を超えていない場合には,被告会社の就業規則の解雇事由(その職務遂行に不適当,その職務遂行に不十分または無能)に該当するとされ,原告の言動から再教育機会を与えても能力・適格性の向上の見込みがないとして解雇権濫用に当たらないと判断された。業績不振等を理由とする退職勧奨を経ての解雇に関する事案としては,セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11.10.15労判770号34頁,解雇無効),エース損害保険事件(東京地決平13.8.10労判820号74頁,解雇無効),ヴァリグ日本支社事件(東京地判平13.12.19労判817号5頁,解雇無効)がある。

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