ヴァリグ日本支社事件


ヴァリグ日本支社事件
東京地方裁判所判決 平成13年12月19日
労働判例817号5頁

(1) 事件の概要 本件は,ブラジルの航空会社である被告Yの日本支社の貨物部長であった原告X1と予約部次長X2が就業規則所定の「止むを得ない業務上の都合」を理由として解雇されたことにつき,本件解雇はいわゆる整理解雇の4要件を全く満たしておらず無効であるとして,Yに対し,雇用契約上の権利を有する地位の確認および解雇日の翌日以降の賃金の支払い等を求めた事案である。
 Yの全社的経営状況は,資本金を上回る巨額の累積損失額を抱えていて,Yは経営再建の一環として人員削減を計画した。Yと航空機リース会社との「特別合意」においても,少なくとも4370名の従業員の削減が含まれていたが,「政府または組合の規制により上記の人員削減が禁止されている場合。この場合においては経費削減は他の手段において達成される。」旨が付記され,上記削減人負数の変更は可能であった。
 日本支社は,本社の了解を得て,人員削減目標を29名程度に定めた。日本支社は,定年年齢の65歳から60歳への引下げについて,53歳以降の定期昇給停止の撤廃等を条件とする組合の条件付き同意を得て就業規則を改正し,60歳を超える職員4名に退職を勧告した結果,3名が退職したが,1名は同意した後,就業規則変更の無効を主張して,従業員としての地位確認等を求めて提訴した。
 次いで日本支社は,退職金の6か月分上乗せ等を条件に早期退職を募集したが,応募者が1名に止まったので,同一条件で53歳以上の幹部職員6名に対して退職を勧告し,X1を除く5名は退職を承諾した。引き続き日本支社は53歳未満の幹部職員に退職を勧告し,2名が承諾した。X2に提示された条件は,退職金の2か月分上乗せであり,X2は,Yが再就職先を世話することを承諾条件として提案したが,Yは拒否した。さらに日本支社は執務能力に問題があると判断した一般従業員6名(全員組合員)に退職を勧奨したが,応じる者がなかったので,全員を解雇した。そのほか営業所の閉鎖による退職等により,日本支社の従業員75名のうちX1らを含む26名が離職した。(2) 判断のポイント 本判決はまず,(1)のとおり,本件解雇はYの就業規則の「止むを得ない業務上の都合」を理由とする解雇であるとしたうえで,解雇事由に該当する場合でも解雇権濫用の法理が適用され,その判断基準として,人員削減の必要性,解雇回避の努力,被解雇者の選定の妥当性,解雇手続の相当性を挙げている。
 人員削減の必要性については,次のように判断した。Yの経営悪化によりその経営再建の一環として人員削減を検討・実行したことそれ自体は不合理ではなく,原告側はYの日本支社が黒字体質で人員削減の必要性がないと主張するが,日本支社は独立した法人格を有せず,独自の資金・資産も保有せず,必要な経費支出にも本社決裁を要したので,Yの人員削減の必要性を全社単位で考慮するのは当然であり,日本支社の枠内でのみ人員削減の必要性を問題とするのは合理的ではない。しかし,海外全体の人員削減率約25%に比べ,修正された日本支社の削減目標数(29名)は全従業員の約40%と極めて高いが,日本支社では,本件解雇通告の約4か月前および約7か月後に全従業員の賃金のベースアップを実行していることから,多数の人員を削減する経営上の必要性について疑問が残る。なお,Yとリース会社との「特別合意」は,「政府または組合の規制により上記に言及された人員削減が禁止されている場合」には,他の手段により経費削減を達成することを許容するものであり,「我が国においては,確立した判例理論である解雇権濫用法理を前提とした労使慣行があり,これは政府または組合の規制に準じるものというべきである」ので,特別合意における人員削減の数自体は絶対的なものではない。
 次いで解雇回避の努力等については,次のように判断した。Yの全社的な経費削減の緊急の必要性があったことは否定できないが,日本支社ではベースアップの実施,就業規則どおりの賞与が支給されており,日本支社の人員削減の緊急性には疑問が残る。他方,早期退職募集は当初から必要な応募者の確保を期待できないようなものにすぎないともいえ,これと同一条件による退職勧告をX1を含む幹部職員に対して個別に行い,X2に対しては条件を下げて提示し,X2からの再就職先斡旋の申入れを即座に拒絶していることから,Yが本件解雇を避けるため必要な努力を尽くしたというには疑問があり,そもそも,Yにおいて本件解雇を回避しようとする意思があったのかすら疑いを抱かざるを得ない。
 次いで被解雇者の選定の妥当性については,次のように判断した。一定年齢以上の者とする被解雇者の選定基準は,一般的には,使用者の恣意が介在する余地がない点で公平性が担保され,年功序列賃金体系をとる企業(日本支社も該当)では,一定額の経費削減のための解雇人員が相対的に少なくてすむ点においてそれなりに合理性がある。しかし,本件の基準の53歳は,定年年齢(60歳または65歳)までの残存期間の賃金に対する被用者の期待も軽視できず,再就職が事実上非常に困難な年齢であり,代償となるべき経済的利益や再就職の支援なしに上記年齢を解雇基準とすることは,解雇後の被用者およびその家族の生活に対する配慮を欠く結果になり,Xらの担当する幹部職員としての業務が,高齢になるほど業績の低下する業務であることも認められないことから,幹部職員で53歳以上の者という基準は必ずしも合理的とはいえない面がある。そして,Yは,まず非組合員を対象に,順次退職勧奨・整理解雇を行う一方で,組合員に対しては,ベースアップ,53歳昇給停止の解除を約束するなど優遇しており,この処遇格差は,非組合員が幹部職員であることのみをもっては合理的とは評価できず,Yの退職勧奨・整理解雇の対象の人選は全体として著しく不合理である。
 次いで解雇手続の相当性については,本件解雇通告当時,増便の予定から日本支社の業務量の増加が予想され,平成6年春闘でも,ベースアップと通常どおりの賞与支給で妥結したことから,日本支社においても人員整理を断行する必要があるとの事情は,Yからの具体的かつ明確な説明がない限り,退職勧奨・整理解雇の対象となった職員が納得することは困難であったにもかかわらず,支社長が人員削減の必要性に初めて言及したのが本件解雇通告の約3か月前であり,それ以降Yは人員削減の規模や退職勧奨・整理解雇の基準を終始明確にしなかったから,Yの対象職員への説明は,誠実なものではなかったとした。
 以上の判断から本判決は,Yには企業の合理的な運営の見地からすれば全社的には人員削減の必要性が存在し,一般抽象的には日本支社もその例外ではないから,「止むを得ない業務上の都合」の解雇事由が存在したことは一応肯定し得るものの,その人員削減の手段として行われた本件解雇は,退職勧奨・整理解雇の対象人員数,人選基準や解雇手続等を総合考慮すれば著しく不合理であって,社会的に相当とはいえないから,解雇権の濫用であり,無効であると判断した。
 最後に本判決は,雇用契約上の地位の確認と同時に,将来の賃金を請求する場合には,地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務の提供を拒否して,その賃金の存在を争うことが予想されるなど特段の事情が認められない限り,賃金請求中判決確定後に係る部分について,あらかじめ請求する必要がないとして,本件では上記特段の事情を認めることはできないことから,Xらの将来分の賃金請求を不適法として却下した。
(3) 参考判例 整理解雇の有効性の判断について,最近,従来の判例の傾向とは異なる裁判例が現れている。角川文化振興財団事件(東京地決平11.11.29労判780号67頁)では,訴外書店からの業務委託契約の打切りによる債務者の書籍編集部門編さん室閉鎖により解雇されたことにつき,同解雇は債権者らが主張する「リストラ解雇」ではなく,上記業務委託契約の打切りにより債務者が編さん室を閉鎖することにしたのは当然の措置であり,編さん業務に従事する目的で雇用されていた債権者らの解雇は解雇権濫用には当たらないとして,債権者らの申立てが却下されている。
 また,ナショナル・ウエストミンスター銀行(三次仮処分)事件(東京地決平12.1.21労判782号23頁)では,外資系銀行の事業部門の閉鎖に伴う整理解雇について,解雇権濫用の有無の判断は,本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うべきものとし,いわゆる整理解雇の4要件の充足の有無による判断が退けられ,「雇用契約解消の合理性」,「雇用契約解消後の債権者の生活維持等に対する配慮」,「本件解雇に至る手続」に照らし,解雇権の濫用に当たらないと判断された。これに先立ち,同事件の(ニ次仮処分)事件(東京地決平11.1.29労判782号35頁)では,4要件の基準に拠らないで,新たに経営上の人員削減の「必要性」と解雇の選択という「手段」との均衡という判断枠組みに従って,同解雇が解雇権の濫用に当たると判断されている。
 他方,マルマン事件(大阪地判平12.5.8労判787号18頁)では,家電販売会社の営業社員が退職勧奨を拒否してただ一人整理解雇として指名解雇されたことについて,4要件を示して,人員削減の必要性は小さくなっており,他に,配転等の解雇回避措置をとりうる状況のもとでは,本件解雇は,解雇権の濫用に当たると判断されている。
 なお,年齢による基準については,「満52歳以上の者」という基準につき,「年齢による整理解雇基準の設定は客観的基準であり主観的要素が入り込まないこと,高齢者から解雇していく場合は,その再就職が困難である等の問題点も多いことは否定できないが,退職金等によりその経済的打撃を調整できること,炭鉱経営者が高齢者の体力面や機械化への適応性に不安をもつのも一概に理由がないとはいえない」とした三井石炭鉱業事件(福岡地判平4.11,25労判621号33頁)がある。

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