東洋酸素事件


東洋酸素事件
東京高等裁判所判決 昭和54年10月29日
判例タイムズ401号41頁

一 各種高圧ガスの製造販売業者であるYは、そのアセチレン部門が市況の悪化その他により昭和38年以降赤字に転落(昭和44年上期の累積赤字4億円)し、黒字への復帰は不能となり、そのまま放置すれば、Yの経営自体が破綻又は回復不能の状態に陥るものとして、右の事業部門の閉鎖を決定し、Xらを含む同部門所属の従業員については、課長職1名をのぞく全員に対し「やむを得ない事業の都合によるとき」は従業員を解雇できる旨の就業規則の規定により、同部門閉鎖日をもって解雇する旨通告した。
 これに対しXらは、Yの右主張を争ったほか、本件整理解雇についてのYの解雇回避、被解雇者の合理的人選についての努力又は配慮の欠如、解雇手続の不当等を主張し、本件解雇を信義則違反又は権利濫用として争ったほか、組合活動家であるXらに対する不当労働行為であるとして、その従業員たる地位の保全を求めた。
以上が事案の概要である。
 二 原審(東京地判昭51・4・19労働判例255号58頁)は、本件のごとき整理解雇が有効であるためには、事業部門の閉鎖と従業員解雇の両者につき経営上やむを得ない事由があるほか、解雇手続自体に社会的相当性の存することを要するものとしたうえ、事業部門閉鎖の必要性は認めたが、他の要件はなかったものとしてYの主張を排斥してXらの申請を認容した(なお、原判決のこの点に関する「抗弁に対する判断」は、本判決の末尾に抄録)。
 これに対して本判決は、前記就業規則の条項をわが国における一般的な労働者の雇用形態から生ずる労働者保護の必要性に由来する解雇自由の制限を明文化したものと把握したうえ、本件の場合右条項による解雇事由の有無の判定に当っては、(1)事業部門閉鎖の必要性、(2)人員整理の必要性ないし合理性、(3)被解雇者選定の合理性の三要件の充足が吟味されれば足り、解雇手続が合理的になされなかったことは、解雇権の発生障害事由にとどまるものとし、詳細に事実を認定して右の三要件の存在を肯定し、また、本件事業部門閉鎖は、昭和45年6月に決定され、7月上旬にその実施期日を8月15日と定められたが、部門閉鎖と従業員解雇が組合に通知されたのが7月16日、被解雇者に対する解雇通告が7月24日で、しかも部門閉鎖は予定どおり実施されたのであるが、判決は、この点に関し、かかる措置が、いわゆる抜打的措置とは断定できないこと、同業他者の場合と同日に扱うことができないこと、Yに対し配置転換その他による解雇回避措置を期待することができなかったこと等を詳細に説示して、Xらの信義則違反ないし権利濫用の主張を排斥している。
 三 本件のような経営維持又は経営不振の打開を目的として行われる整理解雇に関する判例の動向については、解雇事由の有無の判定に当り、本判決の掲げる三要件のほかに組合又は労働者の団体との協議その他解雇手続の合理性をもその要件に加え(本件の原判決、長崎地大村支判昭50・12・24判時813号98頁、東京地判昭52・7・29労働判例286号48頁等)、殊に解雇の必要性の有無の判定に当っては、当該解雇を行わなければ経営維持が危殆に瀕する程度の緊迫性の有無が問われなければならないとする例(例えば、前掲長崎地大村支判、広島地決昭51・7・26判時833号118頁がそれである)も現われていることは周知のとおりであるが、本判決が、これらの判決例と対蹠的な立場を明確に打出している点は、本判決が高裁段階の判例であるだけに極めて注目される。
 また本件の解雇通告が本判決もいうように「いささか性急かつ強引であった感」をまぬかれないものであったにかかわらず、本判決は前記のようにXらの権利濫用の主張を排斥しているのであって、この判断は、実務上参考になる点を多く含むものと思われる。
なお参考までに、比較的類似すると思われる事案をも含めて、この点についての最近の参考判例を掲げれば次のとおりである。
権利濫用とするもの-前記4例のほか横浜地横須賀支判昭46・12・14本誌282号252頁、大阪高決昭48・3・8判時702号105頁、東京地判昭50・3・25本誌329号249頁、ならないとしたもの-東京地判昭50・3・28判時786号89頁、東京高判昭51・8・30判時838号87頁、最判昭52・12・15労経判速968号9頁。

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