アイレックス事件


アイレックス事件
横浜地方裁判所判決 平成18年9月26日
労働判例930号68頁

(1)事件の概要 プリント配線板およびプリント回路板等の設計,製造,加工,売買および輸出入業務等を目的とする株式会社である被告Y社は,業績悪化のため,工場で稼働する製造部門に所属する従業員のうち30名の人員削減を行うことを決定し,人事考課の結果に基づき,最下位のものから順次30名を被解雇者として選定することにした。しかし,実際に選定を行ったところ,30名の中に役職者3名,障害者1名,直ちに代替要員を配置することが困難な業務に従事する者5名が含まれていたため,これらの者を被解雇者から除外し,最終的に21名を解雇した。この21名のうちの1人であった原告Xが,解雇の効力を争い,労働契約上の権利を有する地位の確認および解雇後の給与の支払いを求めたのが本件である。
(2)判断のポイント 本件解雇は,企業経営の合理化のために余剰人員を削減する,いわゆる整理解雇である。判決は,以下のように判示し,いわゆる整理解雇の4要件ないし4要素のうち,人員削減の必要性は認められるものの,解雇回避の努力が十分つくされることなく,被解雇者の選定方法も合理性に疑問が残る形で行われ,解雇の手続きでも相当な説明がなされたとはいえないから,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上相当として是認することができないものであり,本件解雇は,解雇権の濫用として無効になると判断した。
①人員削減の必要性について
 判決は,本件解雇の時点におけるY社の経営状態が著しく悪化していることは明らかであり,この時点において,Y社が損失を解消し利益を上げる方法の1つとして人員削減を行う必要性はあったと認めた。また,原告主張の,Y社が整理解雇を行っているにもかかわらず,人員募集を行っていることが人員削減の必要性を疑わせる点については,人員の削減が人件費の削減につながる以上,結果的に人員不足を来して補充を要することとなったとしても,人員削減の必要性が直ちに否定されるものではなく,また,当該人員募集は本件解雇後のことであり,部門・職種が異なるなど,本件解雇で対象とされた製造部門の従業員についての人員削減の必要性と矛盾するものではないと判断した。
②解雇回避努力の十分性について
 事業規模等からすれば,Y社に退職金の上乗せ等の資金的余裕が全くなかったとは考えがたく,また希望退職による人員流出については,本件解雇の際に余剰人員が存在したのは工場の製造部門所属の従業員であり,特殊な知識・経験・資格を要するとまでいえるものではないから,当該部門の従業員に対して希望退職を実施する限り,代替性のない人材の社外流出の恐れはなく,希望退職の不実施に合理的理由はないこと,また,臨時的社員の削減を困難とする事情があったとはいいがたいにもかかわらず,それを行わずに,正社員に対する本件整理解雇を行っていること,および工場の一時休止および関連会社への余剰人員の出向は不可能であったとするY社の主張には理由がないことから,判決は,Y社が解雇回避努力を十分につくしたとはいえないと判断した。
③被解雇者の選定方法の合理性について
 判決は,整理解雇の基準として従業員の人事考課を基準とすること自体が合理性を欠くものではないと述べる。しかし本件では,人事考課を基準としながら,役職者や直ちに代替要員を配置することが困難な業務に従事する者を被解雇者から除外していることが問題となった。判決は,この点について,単に役職者であることを理由に被解雇者から除外することに合理性があるとするのは困難であるし,また,Y社が直ちに代替する要員を配置することを困難とする業務は,単に引継ぎに多少時間を要する業務にすぎないと認めるのが相当であり,この業務に従事する者を被解雇者から除外することが,被解雇者選定の基準として合理性を持つものかは疑問であり,被解雇者の選定方法に合理性を認めるのは困難であると判断した。
④手続きの相当性について
 Y社は,2回にわたりXと個別に面談しているが,本件解雇が整理解雇である事実や被解雇者の人数を告げておらず,解雇理由として整理解雇とは異なる普通解雇の条項をあげていたこと,また,3回にわたり組合と団体交渉を行っているが,本件解雇後に行われたもので,被解雇者から役職者等を除外した事実について何らの説明を行っていないことから,判決は,解雇の手続きにおいて相当な説明がなされたとはいえないと判断した。
(3)参考判例 本件は,工場で就労する従業員の一部について行った整理解雇の有効性が争われたものであり,本件裁判所は,従来より裁判所において形成されてきた①人員削減の必要性,②解雇回避努力の十分性,③被解雇者選定方法の合理性,④手続きの相当性の4点を考慮するという整理解雇法理に従った,オーソドックスな判断を行っているといえよう。
 これに対し,事業廃止や部門廃止に伴う整理解雇については,従来の整理解雇基準を要素としつつ,これに従い判断する裁判例(最近の例として,山田紡績事件・名古屋高判平18.1.17労判909号5頁,最三小決平19.3.6=上告棄却・不受理など)もあるが,他方で,事業廃止の必要性および解雇手続の妥当性を総合的に検討して判断すベきであるとして,従来の整理解雇法理とは異なる基準により判断する裁判例(三陸ハーネス事件・仙台地決平17.12.15労判915号152頁など)も現れているところである。

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