かどや製油事件


かどや製油事件
東京地方裁判所判決 平成11年11月30日
労働判例777号36頁

(1) 甲事件は、被告の従業員であった原告X1が、被告会社Yから、不誠実な勤務態度と通勤手当の不正受給等を理由に懲戒解雇されたのは無効であるとして従業員としての地位の確認等を請求した事案である。地方、乙事件は、Yが、X1が従業員としての地位を喪失したことにより弁済期が到来したとして、X1とその連帯保証人X2に対し貨付金の返済(約七四八万円)を、さらにYが、X1が過大に通勤手当を受領していた(約二三一円)として、X1に対し不当利得返還請求をした事案である。
 争点は、懲戒解雇事由の有無、懲戒権または解雇権濫用の有無、乙事件のX2の保証債務の成否の三点である。
(2) 本判法は、まず甲事件について、X1は、Yの業務遂行をほとんど放棄していたに等しく、その不誠実な態度は、Yの就業規則の懲戒解雇事由に該当すると判断した。さらに通勤手当の不正受給について本判決は、平成四年三月から平成八年八月に懲戒解雇されるまでの長期間にわたり、X1は、虚偽の住所を会社に届け出て通勤手当の支給を受け、約二三一万円を不当利得していたことは、Yの就業規則の懲戒解雇事由に該当すると判断した。そして、右のようなんの不誠実な勤務態度や行為を理由とする本件懲戒解雇は、懲戒権または解雇権濫用には当たらず有効と判断した。
(3) 次に乙事件について本判決は、YとX1が平成三年に締結した消費貨借契約に基づく貸付金残高約七四八万円と遅延損害金について、X1に支払いを命ずるとともに、連帯保証人X2も、Yに対し本件消費貸借契約に係る連帯保証契約に基づき支払義務があるとした。また、YによるX1に対する通勤手当の差額相当額(約二三一万円)の不当利得返還請求と先払いの平成八年九月分の通勤手当(五万円)の返還請求も認容した。
(4) 甲事件の冷の懲戒解雇について本判決は、平成八年五月二二日から同年七月二五日までの問の、X1が出勤しても一日の大半は上司に無届けで離席して連絡が取れない状況になり業務を放棄していた不誠実な勤務態度は、懲戒解雇事由に該当するとしている。
 本件において判決は、X1は経理に関して代表取締役Oの弱点を握ったと考え、不誠実な勤務態度に出たり、乙事件の消費貸借契約に基づく第一順位の抵当権設定の約束を履行しない、過大な通勤手当を請求するなどの挙に出たと推認されるとし、Oもこれら懲戒解雇事由の存在を認識しながらこれを放置してきたことが窺われるが、仮にそうだとしても、本件懲戒解雇が権利の濫用に当たるか否かは、X1とO個人との問題ではなく、懲戒解雇事由の存否等によって判断すべき問題であるとしている。
(5) 本件が耳目を集めるのは、約四年半の間の過大な通勤手当の不当利得の点であろう。各種手当等の不正受領を理由とする懲戒解雇または解雇の効力が争われたものに以下の裁判例がある。マッキーインターナショナル事件(東京地判平5・10・19労判六四七号七二頁)は虚偽の住居の届出により住宅補助費等(約三二万円)を不正に受領したことを理由とする懲戒解雇は、右虚偽届出と住宅補助費等の不正受領が上司(責任をとって退職)の指示によるものであったことから、懲戒解雇処分は苛酷に過ぎ懲戒権の濫用に当たるとしている。シンガポール航空事件(東京地判昭55・2・29労判三三七号四三頁)は、交通費、接待費の虚偽報告、不正請求を理由とする懲戒解雇について、交通費については実際にこれに相当する支出を行っており、接待費の領収書流用についてはその額が少額であり、本人から詫びが入っていることから、懲戒解雇は苛酷に失し無効と判断している。
(6) 企業による従業員に対する住宅資金等の貸付けは広く行われているが、融資規定および消費貸借契約において、従業員が退職・解雇・死亡等により借入資格を失った場合には残務債務額の即時返済を規定する例が多い(佐々木力編『精選人事・給与・福利厚生規程とつくり方』経営書院、平成七年)。
 本件においても、X1が従業員としての身分を喪失した場合は、残元利金を返済すること等を合意して消費貸借契約を締結しており、被告会社は連帯保証人X2と連帯保証契約を締結していた。
 解雇・退職に際し貸付金の返還が争われた事案としては、就労準備金の返還請求が棄却された医療法人北錦会事件(大阪簡判平7・3・16労判六七七号五一頁)があり、社内留学制度利用に際して締結した、帰国後一定期間勤務した場合には返済債務を免除する旨の特約付き金銭消費貸借契約に基づく、退職社員に対する留学費用の返還請求が認容された例に長谷エコーポレーション事件(東京地判平9・5・26労判何一七号一四頁)
 Xの保証債務について本判決は、民法四四六条が「保証人ハ主タル債務者力其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ其履行ヲ為ス責ニ任ス」とし、連帯保証の場合には、同四五四条は「保証人力主タル債務者卜連帯シテ債務ヲ負担シタルトキハ前二条ニ定メタル権利ヲ有セス」として、保証人が有する催告の抗弁権(同四五二条)、検索の抗弁権(同四五三条)の二つの抗弁権がないとしており、同四四七条一項が「保証債務ハ主タル債務ニ関スル利息、違約金、損害賠償其他総テ其債務ニ従タルモノヲ包含ス」としていることから、X2に、連帯保証契約に基づいて、X1の借入金残金と遅延損害金の支払いを命じている。          (一部仮名)

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